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先生の正体
ユウキ先生は不思議な人だった。
給食の時間、何も食べない。
みんなが食べてるのを優しく見てるだけ。
最初は誰もそんな事、知らないから。
普通に先生の分の給食を用意した。
「先生はお昼ごはんは食べないんだ。そう言う健康法だよ。」
先生がそう言うから、食いしん坊な男子達はおおいに盛り上がった。
誰がおかずを貰うか、誰がデザートを貰うか。
じゃんけん大会が盛り上がりすぎて、隣のクラスの生生がのぞきに来たくらい。
何日目かには、先生の給食のおかずは均等に分けられるようになった。
そうやって、目先の給食に感心が向かっていて、先生がお昼ご飯を食べないと言う事実は、誰も気にならないみたいだった。
ユウキ先生と、羽のことで話がしたかったけど、なかなか1人になることがなく。
何日も先生の授業を受けたある日。忘れ物をして夕方の学校に戻った日が来るまでチャンスがなかった。
「ユウキ先生!聞きたいことがあります。」
廊下の先生の背中が見えてる間にと、
あわてて声をかけた。廊下も教室も誰も残ってなくて、いつもと違ってとても声が響いた。
みんな帰ったのに、急に声をかけられてユウキ先生は驚いていた。
「カズヤくん、もう帰ったんじゃなかったかい?」
「プリントを学校に忘れました。」
「そうか。もう遅いから、気をつけて帰るんだよ。」
先生は手を振っていた。
「先生ってフライングヒューマノイドですか?」
なりふりかまってられなかった。こんなチャンス、次はいつあるか分からない。
突然の事で先生は驚いていたけど、かまうもんか。
「先生のどこに飛べる要素があるのさ?」
すぐにいつもの優しい先生になった。でも、ごまかされないぞ。
「僕には先生の背中に羽が見えます。真っ白い大きな羽。いつもはたたんでいるのに、今、広げましたよね。」
先生は目を見開いた。それと同時に急に笑みが消えた。真面目だろう顔は、夕日の影になって、はっきりと表情が分からなかった。
広げた羽の影が、まるで廊下を覆い尽くすように広がって、僕も影に飲み込まれた。
「ちょっと話をしようか?」
案内されるまま、教室に入った。
誰もいない教室は、しんと静まり返ってた。
「フライングヒューマノイド、とは違うかな。でも、カズヤくんに見えるように、先生の背中には翼がある。
これは天使の翼なんだ。」
先生が答えたことは、僕の想像を超えていた。
僕の知る『天使』は絵本に登場していた。
ドラゴンや魔法、神の力、そんなファンタジーな世界にいた。または空高くにいる存在で、けして学校にいなかった。ましてや教壇に立って授業なんてやったりするものじゃなかった。
「天使、と言う言葉は聞いたことはあります。」
「君は面白いね。人とは違うものが見えてるのに、他の人が認識しない存在は受け入れるのが難しいんだね。」
「話を聞くだけで会うのがはじめてだから、かもしれません。」
「そうか。まずカズヤくんのことを正しく理解しよう。先生の話はそれからだ。」
先生はそう言って、自分の目の下をトントンと軽く指先でたたいた。
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