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「よし、恋愛シミュレーションゲームを作ろう!」
唐突に部長が言い放った一言に、部員一同(といっても私一人だけだが)バッとそちらを向いた。
「部長、急に声あげないでください」
「いや、最近のトレンドは恋愛シミュレーションゲームだと思ったのだ」
「また何か影響されましたね」
「実はもう企画はできてるのだ」
部長がパソコンを私に見せる。見せられた企画書という名の落書きにはこんなことが書いてあった。
『学園部活物語~好きな子振り向いて~』とタイトルがでかでかと書かれてある。
そしてどう見ても部長の顔らしき主人公と、どう見ても私の顔らしきヒロインが背中合わせになったイラストがその下に描かれてある。パソコンだというのに無駄にうまい。
「どうだ?」
「部長、告白するならもっとスパッとストレートにしません?」
「いけないか?」
「回りくどい」
部長は口を尖らせてムーッと声にも出す。かわいいのだけど、部長の威厳0だ。
「いいアイデアだと思ったのだがな」
「どこら辺がですか」
「ヒロインの好みがゲームを通して分かるではないか。気楽にトライアンドエラーができる」
「そういうのは現実でやりましょう」
「恥ずかしいではないか」
「ゲームにする方がよっぽど恥ずかしいです」
「むう、そうか……」とつまらなそうにパソコンに向き直ると、「おー、そうか!」とまた声を上げた。今度は何だ。
「恋愛シミュレーションではなく、育児シミュレーションにしよう!」
「気が早すぎる」
でもその数年後、私たちは結婚した。
「うむ、やはり本物が一番だな」
「うん、そうでしょう」
部長改め旦那様が子供をあやしていると、ハッとした顔をした。今度は何を言い出すことやら。
「よし、娘が彼氏を連れてきたときの挨拶シミュレーションを作ろう!」
「まだ1歳だっての!」
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