第2話

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夏から秋へと少しづつ季節の変化を感じさせるやや冷えた空気の中、2頭の馬の歩みは、乗せている男たちの気持ちを反映しているのか、重々しかった。 「ジーケニウス、俺はもううんざりだぞ。」 黄金色に輝く甲冑を身に纏った歳は30前後の高い背の男が眠そうな眼で隣の馬に乗る男に言った。 ジーケニウスと呼ばれたこれまた若い男は、魔導士が着る黒い……やや色の落ちた濃灰色のローブの裾を撫でながら答えた。 「仕方なかろう、ウルリヒ……彼、否、あの方はもうしばらくはお役に立って頂かなくてはならんのだからな。」 「次は東の王国か?」 ウルリヒはさも興味の無さそうな顔をして言った。 「ああ、キコニア王国は現王に替わってから色々と茶々を入れる様になったからな。先王が健在の時は尻尾を振っていたというのに。」 先王とその軍は過去2度にわたりキコニア王国と南の港があるヒスキス王国への派遣をめぐり戦い、勝利した。 その為ヒスキス王国は王国の侵攻に対してどこからも助力を受ける事が出来なくなり、半ば戦わずして王国にその国土を差し出したのだった。 港を手に入れた王国は貿易に力を入れ、今まで手にする事が出来ないほどの富を手に入れた。 北の国や西の帝国がその富を掠めようと手薬煉を引いていたが、先王があるうちは手が出せないでいた。 しかし、先王が崩御されるとこの2国はこぞって王国の国境を侵した。 そこに燦然と立ち向かったのが王弟アナーク公であり、公はまだ20歳を過ぎたばかりの身で、敢然と立ち向かい、2国の先兵をことごとく打ち破り、王国の危機を救った。 その後もアナーク公は軍の指揮を兄王に委ねられると、北の国を果敢に攻め、天領近くまで進撃して北の国を屈服させた。 今、北の国は王国の一部となっている。西の帝国は何度か王国に挑んだが、アナーク公に阻まれ反対に国境を侵され、条約を結んで国境を変えた。 東のキコニア王国はその様を見て、手出しを避けて友好的な立場を取ったが、国内政策が功を奏したのか武力を増して陰では王国に挑もうとする姿が散見された。 「あいつらも懲りないな、来たら来たで何度でも叩き潰してやる。」 「仰せのままに、近衛騎兵旅団長閣下。」 ジーケニウスはウルリヒの軽口を軽く往なすと、歩に合わせて大きくなっていく屋敷に目を遣った。
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