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「おい、小僧何をしてる。鉄は待ってくれないぞ。」
親方が大声で叫んだ。リートは慌てて槌を親方の方へ持ってい行き、親方が負っていた鋏を受け取った。
真っ赤に燃える鉄……親方はリートの目を見ると、焼けた鉄の塊に槌を振るった。十合……二十合……作業場の中は親方の振るう鉄の音だけが響いていた。
「よし、これでよかろう。我ながら中々の代物だ。」
親方はそう言うと歳には似合わない筋肉が盛り上がった両腕を回した。リートはすかさず親方の背に回りその肩を揉んだ。鉄を揉んでいるかのような感触だったが、やがてその硬さは解れていった。
「小僧、どうするかね?」
「はい、お願いします。」
リートはそう言うと、壁に掛かっている二振りの剣に目を遣った。刃は落としてはあるものの、実際に剣士が使う両手剣だった。
「よし、付いてこい。」
親方はそう言うと、いつものとおり火鍵で炉の火を回すと歩き出した。リートは2本の剣を慌てて掴むと親方の後について行った。
店の裏の小さな庭が親方とリートの道場だった。両手で剣を握りしめ間合いを測りつつ親方へ剣を打ち込む。
でも、親方はいつものとおり大人でも両手で握らなければ扱えない剣を片手で無造作にも見える仕草で扱い、リートの太刀筋をいなし、リートの脇腹に強い一撃を加えた。
「うっ……。」
リートがその一撃を受けてよろめくと親方はもう一撃をリートの肩へ撃ち込んだ。
「リートよ、何度言ったら分かるのだ?相手の仕草を読め、さすれば相手の次の一手が読める。剣は力だけでは勝てんぞ。」
「はい!」
リートは痛む腹と肩をそっと撫でると間合いを取った。親方の構えは片手正眼、どこからの攻撃も受けられる構えだった。
リートは思った。親方は片手だ、力のこもった一撃ならその受けた剣を押しつぶせるのではないか……。そう思ったリートは剣を八双に構えた剣を頭の右側に寄せつつ立てた。
上段は力があるが範囲が狭まる、八双なら少しは手が広がる。
目の前の親方は腰だめに剣を構えている。上に振り上げるのは時間がかかりそうだ……リートは親方の目を見据えながら右足にグッと力を入れて、一気に前に出て剣を振り下ろそうとした。しかし……。
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