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伸ばした手の先の少女は何も答えなかった。
その瞳だけがじっとリートの眼を見詰めていた。
薄い金色の瞳は感情が無く、乾いた荒れ地を感じさせた。
リートは伸ばした手をゆっくりと更に少女の方へ差し出した。リートは思った。今、自分はどんな顔をしているんだろうか、と。
そう思ったリートは口の端を少し上げた。少女の眼が一瞬閉じた。そして再度開かれた時、その瞳には虚ろさしかなかった。鈴の様な小さな声がリートの耳に届いた。
「アナタは?」
「リート……鍛冶屋の見習い。」
リートは殊更笑顔をこしらえながら言った。
「わたしを、お屋敷へ?」
何の事だろうか?リートは考えた。
「違うよ。取り敢えずそこから出よう。君が行きたい場所……そこへ連れて行ってあげる。」
リートの言葉に少女はまた眼を閉じた。
リートはそこに座り込むと、背負子の中からりんごを一つ取り出して、腰に吊っているホルダーからナイフを取り出して皮を剝いた。
気が付くと少女はまた目を開けて、その動きをじっと見つめていた。
「嫌い?」
リートは、切り分けたりんごを一切れ差し出した。少女は抱えていた布のようなものから手を放して震える手でりんごを受け取った。
その瞳にはやはり光は無く、受け取った手は泥と血で汚れていた。りんごを受け取った少女はリートを見詰めながらそれを口に入れた。
「おいしい。」
少女はぼつりとそれだけ言った。少女は小さなひとかけらをゆっくりと、まるでそれが最後の食べ物でもあるかのように味わっていた。
しばし……無言の時が流れた。月明かりは悲劇を演ずる舞台を照らす灯の様に、差したかと思えば、また雲に隠れた。
やがて、少女は小さな溜息を吐いた。
「レーア……。」
溜息の後に少女は小さな声で言った。
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