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「レーア……?君の、名前?」
レーアは小さく頷いてから、リートの顔を見上げた。
その表情は首切り役人を目の前にする罪人のようでもあり、殉教を前に達観した僧侶、あるいは誇りと名誉を胸に、勝てぬ戦に吶喊する気高い騎士のようでもあった。
リートはそんなレーアの顔を見詰めながら声に力を込めて言った。
「おいで、レーア君の話を聞かせてよ。そして、僕に何かできることがあれば言って欲しいんだ。」
その言葉に、レーアは最初はおずおずと、そして最後は意を決したかのようにそのか細い手を差し出した。
冷え切ったその掌をリートはそっと握りしめた。
「さあ、行こう。この近くに僕が一番信頼してくれる人の家があるんだ。だから大丈夫。」
レーアはその言葉に何も答えず。小さく観念したかのように頷くと、ゆっくりと立ち上がった。その時背中の羽が小さく動いたが開かれることは無かった。
立ち上がったレーアの足元を見た時、リートは愕然とした。引きちぎられた数インチの鎖が突いた鉄の足枷が右足の踝に嵌っており、足元は裸足で泥と血に汚れていた。
抱えていた布のようなものは大人用の外套でその襟元に付けられた紋章を見たリートは覚ってはいけない何か、今はまだ言葉にはならないが、不吉な何かを感じた。
そこには、昨日来街中を瘦躯する騎兵につけられた紋章の主を表す紋章、王弟アナーク公の紋章が絹の糸で刺繍されていた。
背に背負子を背負い外套に羽が隠れる様、その半身を包ませたレーアを抱きかかえてリートは暗い道を親方の家に向かって歩いた。
リートの腕の中でレーアは時折体を震わせたが何も言わずその薄い金色の瞳を時折リートの瞳に映した。
リートは先ほどから考えている思考を一時中断した。今は兎に角周囲に気を放つことが重要だ、懸念が真実ならば僕も……。
リートは背中に一滴の冷たい汗が滴るのを感じた。
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