蛆虫が裂く花

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蛆虫が裂く花

 耳元で鳴る羽音が煩わしくて目が覚めた。大きな欠伸は心地良くて、背伸びをすれば一日の始まりを告げる。  すぐに温もりで部屋を満たし、カーテンもしっかり閉めて身震いさせる風には細心の注意。肌寒い季節はまだ続いて、いちいち溜息を漏らしてしまう。 「おはよう。今日も元気?」  別に外出の予定はない。けれど、朝食の前に顔を洗って化粧をする。  大好きなアナタはまだ眠っているから一方的に口唇(くちびる)を交わす。もう何度もしているはずなのに頬はみるみる熱くなって、噎せ返るほど濃密な彼の香りに酔ってしまう。朝のルーティンの中でこの瞬間が好きで好きでたまらない。  心臓の高鳴りが治まって呼吸を整えれば水をやる。  パックリと割れて主張する裸の皺は潤いを取り戻し、それを餌に(むし)(たか)る。球根を植えたのは十月末、その一ヶ月頃に発芽、それからは驚くほどゆっくりな成長ペース。本当に咲くのか不安になるぐらいには遅く待ち遠しいけど、最近になって芽は葉へと変化した。その愛らしく生えた小さな過程に見惚れてしまう。  相変わらず羽音はうるさいし、隙間に潜りびっしりと(うごめ)く幼虫は元気に肉を食らっている。蟲が湧くということは順調に育っているということでいいのかな? 「うん? 誰だろう……」  普段は鳴らないインターホンが家中に響き、心がビクリと臆病に跳ねる。来客の予定はないし、ネットで何か注文した記憶もない。居留守を使ってもいい、でも電気メーターを見られたら終わり。ここで躊躇っていたら怪しまれる……深呼吸をすれば仕方なく玄関の前に立ち、ドアアイから私を呼ぶ存在を確認する。  その姿に見覚えはあった。ショートウルフの襟足を触りながら、苛立ちを隠す気配もなく踏み鳴らす彼女は……一応、大学の友人だ。 「おい、いるんだろ。早く開けろや」
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