蛆虫が裂く花

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 視線に気づいた、はたまた最初から分かっていたか……彼女はこちらを睨み付ける。  まるで借金取りのように横暴な態度。特別仲が良いわけではないし、連絡だってほとんどしない。大学でよく隣になるから喋った程度の関係性。飲み会で「酔った」としつこいから家に上げてしまったのが間違いだった。それからというもの、電話してくるわけでもなく勝手にやってきて「上げろ」と高圧的な物言い。自分の断れない性格、いやノーと言えないことが災いした結果。  心の中で悪態をついて、やれやれとドアを開ける。 「遅いんだよ」  彼女が聞こえるように舌打ちをすると、ずかずかと靴を脱いで揃えることもせずに上がってくる。こういうガサツな所作が苦手。人のテリトリーに躊躇いもなく侵入して、オマケにいつも汚して帰るところも嫌い。  もし断れば次授業で会った時に理不尽に責められるし……今一番の悩みのタネ。 「いつも連絡してくださいって言ってるじゃないですか」 「は? 最近ずっと大学に来てないから心配してやったんだろ? だからこうして……いや、それより今日は用事があってきたんだわ」  ドスの効いた声には全く似合っていない地雷メイクにエグイ数のピアスが歪に光る。用件を言ってさっさと帰ってほしいところだけど、嫌な予感が胸をざわつかせる。  機嫌を取るようにして砂糖たっぷりのコーヒーを注いだマグカップを手渡す。熱々なのも構わずに一気に飲み干せば、忙しなく彼女は言葉を紡ぎ始める。 「アンタが顔を出さなくなってから、アイツに連絡が取れないんだけどさ。隠し事してね?」  『アイツ』……それは彼のことだ。性格もキツく終わっているこの女は妄信的に一方的に彼氏と言い張っているけど、本当は私と付き合っていることを知らない。家に来ては彼のことばかり、何も知らないクセして嘘に塗れた自慢話。まったく、人の男にちょっかいを出してはた迷惑。  憎悪をぶちまけたい……でもそれを溜飲して首を横に振る。すると、彼女はますます目を細めて顔を近付けてくる。彼とは対照的に甘ったるい香水の匂いが鼻孔に広がり吐き気を催す。
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