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「色んな奴から話聞いたけど、アンタが一番怪しい。ことあるごとにアイツに付き纏って、ストーカーみたいだって。失踪した日にアンタと一緒に歩いてたって目撃情報もあるんだわ」
「そう言われましても……」
刹那、視界が白黒に暗転した。突然、鼻柱が熱くなりドロリとした血液が無抵抗に垂れていた。あろうことか彼女は私の返答を遮るようにして頭突きをしてきたのだ。
「もう一回聞くけど、隠し事はしてねーんだよな?」
「していま……ぶっ……!?」
鼻を抑えながら、彼女の目を見て答えようとした。それなのに、それを待つこともせずに私を張り倒した。受身をとることもできず後頭部を床にぶつけて、意識は朦朧と現実と夢を混合させる。その衝撃から空のマグカップが割れる音が残響し、その破片が私の皮膚を掠り傷つける。
「もういい。アンタの言葉は信じない。勝手に調べさせてもらう」
上体を起こすのがやっと、それでも目が回って周りの景色が混濁して気持ち悪い。ただハッキリと、頬から流れる血がポツポツと床を染めていく様だけは分かった。
私と彼だけの幸せな空間。ただ一緒に花開くのを待っているだけなのに、何でこんな目に遭わないといけないの?
思考がまとまらない。考えても答えは出ない、あまりに理不尽な事柄に力無い涙が溢れてきた。あの女に会ってからは散々、土足で花園を踏み荒らして全部を壊そうとしている。私から何もかもを奪おうとしている。
「この部屋……うるさいし、臭いし怪しいな……」
「やめ……やめて……!」
彼女はとうとう秘密に手をかけた。飽きることを知らないほど愛し合って、毎朝クチヅケをするとこしえの空間……二人きりで咲かせたい園が侵されようとしている。
止めたいのにグルグルと巡る視線が、まだ立ち上がることを許してくれない。伸ばした指の先にあるのは無力な自分をせせら笑う無の光だけ。
「暗っ……何これ……? 生首……!?」
彼女の耳をつんざく悲鳴が届く。そこで目の前の視界は薄らいで、次第には何も見えなくなってしまった。霞みゆく意識の中で見えたのは彼の笑顔だった。
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