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仕事で大失敗をして
上司にこっ酷く怒られ
数年ぶりに
もう、これでもかくらい
落ち込んだ。
「なっさけな…。」
冬の屋上で、缶コーヒーを片手に
遠くにある寒空を仰ぐ。
フーッと吐いた息が
白い煙になって宙に消えた。
自分が不甲斐なさ過ぎて
ここから逃げてしまいたい衝動に駆られ
届くはずのない、空に手を伸ばす。
『誰かあそこまで
オレを連れて行ってくれないか…?』
そんな、何かの曲の歌詞に
出てきそうな言葉が頭に浮かぶ。
と、空へ伸ばした手の先に
真っ白な羽根が3枚
ふわふわと舞い落ちて来るのが見えた。
「……羽根…?」
舞う羽根を1つ指先で捕まえて
陽の光に透かしながら
苦笑い気味で話しかける。
「神様…
オレがあそこまで飛べるように
天使でも派遣してくれたんてすか?」
…………と、
「せんぱ〜い!やっと見つけました〜!」
今のオレの心境とはあまりにも真逆な
能天気な声が響く。
何故か、いつもオレにくっついて来る
少し間の抜けた後輩だ。
「先輩、寒くないですか?
これ、着てください!」
そいつは、オレに上着を
投げてよこす。
それが投げらた瞬間
宙に浮く上着から
尋常ではない量の
無数の羽が散らばり舞うのが目に入る。
「はっ?!」
そして、オレの手に収まった瞬間
それは頭から降り注ぎ
オレは全身羽だらけの状態…。
見ると、ダウンジャケットの裾が
派手に30センチ程裂けていた…。
それも、2箇所…。
「…おいっ…。
どうやったら…こんな状態になる…?」
この惨状を目の当たりにしてもなお
コイツは能天気に返す。
「これ、更衣室のロッカーから出す時
思いっきり、金具に引っ掛けて
裂けちゃいまして。」
「…裂けちゃいましてって…。
お前………。
ふっ…ふふふ…アハハ。」
コイツのあまりにもの能天気さと
このあり得ない惨状に
一気に体の力が抜け
笑いがこみ上げてきた。
失敗した事実は消えてないし
その上、全身羽だらけ状態なのに
気持ちが軽くなる。
「なんか…もう、いいか…。」
「…え?先輩なんか言いました?
……って、うわっ!」
オレの顔を覗き込むように
近づいて来た後輩に
羽がモアモアと零れ落ちてきている
ダウンを放り投げる。
「…ありがとな…。」
全身に付いた羽を
手で払い落としながら
相手に聞こえない
ギリギリの音量で礼を言う。
「え?なんですか?」
「なんでもない!帰るぞ。」
「え?え?待ってくださいよ!」
羽をばら撒きながら
笑顔のままオレの後を着いてくる。
神様が派遣したのは
羽根の生えた天使ではなく
羽を頭から被った能天気な後輩で
空に行けなかったけど
オレが救われた事に違いはない…。
ただ、この後輩が
この後、会社内に大量の羽を
撒き散らして歩いた件で
ビル管理業務の人達から
厳重注意をされる事になるのだけれど…。
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