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「そろそろ頃合いだろう。貴様たちは作業を始めろ。聖獣といえどもサンクテクォとて不死ではない。その身を挺して大樹を守ろうとするだろうが、怯むなよ。サンクテクォに気を取られすぎるな。大樹さえ倒してしまえばそれで貴様らの役目は果たせるのだ」
真紅のマントに身を包んだ屈強な男が、自身の体躯よりもひと周り大きく、野生的な集団を率いて雄叫びを上げさせている。
細く長かった雄叫びが、間隔を変え、音域を変え、音量を変え、太く、短く、地面を踏みつける音と共に大地と空気を震わせた。
「ゆけ! スキアボスたちよ!」
「グオーウ!」
それは雄叫びなどではなく、咆哮を呼ぶべきものであった。
五十体ほどの「スキアボス」と呼ばれた種族の群れによる咆哮が、シェニムの森の静寂を容赦なく引き裂いた。
シェニムに棲む聖獣はサンクテクォだけではない。この時、森の異変に最初に気付いたのは、シェニム火山の火口の中を寝床とする聖獣ユーランだ。熱を反射する銀色の鱗に身体を覆われ、六本の脚で駆ける姿は、地上の流星のようだった。
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