序章

2/2
前へ
/35ページ
次へ
「なんで寝なけりゃいけないのぅ〜!!」  〜彼等は訳の解らない屁理屈をブンブン、カワユイふくれっ面でいいくさり、プイッと、ほっておいたらいつまでもゴネるばかりで全然眠りにつかない。  明日も仕事だ、いい加減はよ寝てくれな無意味に口が達者、生意気盛りの子羊達。  そんな時の苦難な親達にとってのスペシャルカード、ばばんと切るとっておきの切り札がこれだ。  「ふーーーん あっそぅ〜?  あなたが そんなふうだったら、入れて貰おうかなぁ〜  『あ そ こ』に〜〜〜??」  「ぇ??」  「可愛い子羊さん達を恐ろしい狼さん達が食べちゃうぞー」  「二度と出られない場所にーーーーー  こわぁ〜い凄腕の看守の人達が悪いキッズをどこにいるんだーって必ず捕まえに来るからねぇ〜?」 「!!やだっっ」  「〜我が儘いって寝ない子誰かなぁってね  あぁっっ?ーーー  今ギーーーってーーーーー??ドアの外に  い  まーーー  ヒタ ヒ タ… ヒタって足音がっつ?!」  「いやぁ〜〜〜〜〜ー!!」  「やーーーーっっつーーー……!」  「キャーーーーーーッッッツ!!」  「ギャ〜〜〜〜〜」  「ごめんなさぁぁ〜いぃ〜〜〜!!」 などと涙目に、ヒィヒィぴいぴい子羊ちゃんを謝らせ長年伝統的に震え上がらせて来た”我が大恩人の救世主”  絶対にこの世に無くてはならない存在であったのだ。  なにせ 今時の子どもは殆ど怖がらない。  不思議なんて無い  恐竜は死滅した  悪魔なんて居ない  怪獣だって居ない  妖怪もオバケもゴブリンも妖精もドラゴンも居ない  唯一存在を許されているのが”クリスマス”に、都合良くよい子の自分に素敵プレゼントを運んでくれるサンタクロースだけ。  森羅万象全てが明らかになった異様に進化した世界も考え物なのだ。  そんなだから『銀河の何処かにある(らしい)』という近代の神話、神秘のヴェールの彼方の恐ろしげな存在は正直非常に有り難い。 腕白盛りで生意気盛り、ああ言えばこう言う、口達者なおしゃまさん達をアッサリと理屈抜き一刀両断、パコンと寝かしつけらるだなんて、ぁあ、こんな便利な美味しい話は絶対に無いのだ。  実際には脅しつける親たちですら、あるかどうかすら実のところ良く判らない悪夢的存在。  いいや、むしろ幽玄なあやふやさこそ命、重要な事。  『この世に絶対にある』と強く心より信じていたいのは親自身の方だった。  でなければ毎夜毎晩、重い疲労が蓄積するばかり   明日も大変だ……フワァ〜〜〜〜  そんな親たちの夢みる優しい『ディストピア』だった  さてーーー  よもや奉職する職場が、”銀河中でそんな事になっている”と全く知らない真面目な当事者達は今日も今日とて忙しい。 ************  「お話しは何ですか?」  ブスッとした信繁は呼び出された訳を尋ねる  信繁は眉間に皺を寄せあからさまに表情を硬くし、機嫌が悪いのを隠そうともせず、よくわからない性格の気紛れな上官の用向きを確認する    それもその筈、迷惑千万。  強い集中力の継続を求められる体術の訓練途中に強制的に執務室に呼び出されたのだ。  出来ればサッサと用件を済ませて指導に戻りたい  大事な部下達に怪我人が出る前に    『随分露骨よね』  ど真面目な性格の信繁の事をからかう様に再びクスクス面白げに笑うと、スイッっと薄くて小さな電脳書類一式を目の前に突き出す  「まぁそんなにむくれず 取りあえずこれを見て」  「ーーーーーお預かり致します」  辛うじて仏頂面に表情を和らげると信繁は受け取った。  
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加