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『混んでて遅れそう!あと10分ぐらい!』
お母さんからの連絡を見たのは、学校の校門を出た時だった。いつも待っているお母さんの車はそこにはいなく。
『ゆっくりでいいよ』
と返信した私は、いつもお母さんが迎えに来てくれる歩道で、誰の迷惑にならないように待っていた。
そこから見えるのは、道路を挟んだ先にある、古い車屋さん。
病院であった日から3日経っていた。
その3日間、たまに視界の中にお店は入ってくるけど、その人は姿を見せなかった。
ぼんやりとそのお店を眺めている時、車を整備しようとしているのか、1人のツナギの作業着を着た男性が、車をさわり始め。
40代、ほどの男性。
どこからどうみても若くないその男の人は、蛍では無く。
タイヤ⋯を、交換しているらしいその男性をぼんやりと眺めながら、お母さんを待っていた。
ぼんやりと、
何も考えず。
ただ、じっと見つめていた時。
「よぉ」
ふと、左方向から、声がした。
「なんだっけ?湖都だっけ?」
まだ、その声は掠れていた。
その声に聞き覚えのあった私は、ゆっくりと、そっちの方へと顔を向ける。
そこにはさっきまで見ていた男性と同じ作業着を着た、蛍がいて。
今日もマスクをしているらしい蛍の髪は、太陽の下だと本当に透明感が強く。
2mほどの離れた距離にいる彼は、「もう風邪平気なのか?」と、私に近づいてくる。
きっと、3日前の私なら戸惑っていた。
来ないで!近寄らないで!って思っていただろう。
でも彼が、どういう人物がある程度分かっていたからなのか。
「⋯はい、蛍さんは⋯、まだ治っていないようですね」と、普通に返事をすることが出来て。
本当に、先程まで見ていた車屋さんで、働いているらしい。
「もう喉、痛くねぇけどな」
「そうですか」
「帰るのか?」
「⋯はい、迎えが来るので」
「おお、リッチだな」
マスク越しで笑いかけてくる蛍との距離は、人が2人分ほどで。その距離でピタリと止まった蛍。
「今日は⋯お仕事だったんですね」
「そー、休憩中」
そう言いながら、右手を上げて、手に持っているものをフラフラとさせた。
その手には、コンビニの袋が揺れていて。
どうやらコンビニで何かを買って、仕事場へ戻るつもりだったらしく。
蛍は袋を揺らすのをやめ、そこからあるものを取り出すと、ズボンの後ろ側のポケットの中に手をいれ。
マスクを下へとズラした蛍。
カチッと、音がした時には、蛍の手に白くて細い棒に、火がつき煙が出ていた。
隠れていた高い鼻と、薄い唇に挟まれた煙草。
「⋯成人、じゃないですよね?」
「シー、内緒な」
内緒、と言われても、誰に言えばいいのか。
「⋯何歳?」
「17」
確かに、離れていない⋯。
だって、私も17歳だから。
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