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けれども、その考えは間違っていたようで。
ゴールデンウィークが明けた頃、教室内の自分の席から立ち上がろうとした時、ドン―――と、私は何かにぶつかった。
「あ、わりぃ!」
そのぶつかった相手が、男だと分かった時、足がガクガクと震え出すのが分かった。あの事件直後からはマシになったとはいえ、やっぱりまだ、‘男’という存在が怖いらしい私の体。
脳裏に浮かび上がる気持ち悪い記憶を消そうと必死な私は、どうすれば記憶喪失になる事が出来るのだろうと、本気で考えるほどだった。
「よぉ」
今日も、2時間遅れの休憩らしいコンビニ帰りの蛍が、校門前でお母さんを待っている私に話しかけてくる。
「こんにちは」
そう言った自分に驚いた。
何故、蛍ならこうして会話が出来るのか⋯。
震えることもなく。
「偉いなあ、あんた」
こうして何度も会って、会話をしているからか。
突然偉いと言ってきた蛍の作業着は、半袖のツナギに変わっていた。
「毎日学校行って」
毎日⋯
「勉強とか、だるくねぇ?」
勉強とか⋯。
確かに勉強は面倒臭いけれど、勉強することが、当たり前になっているから。
「だるいです」
私の返事にははっと笑った蛍は、コンビニの袋から、何かを取り出し。
その何かを取り出した蛍は、「やるよ」と、私に差し出してきた。
それはどこからどうみても、チョコレートのお菓子だった。
「え?でも⋯」
「これ、あんたがいると思って、買ってきたやつ」
ということは、私に買ってきたということ?
「この時間にここにいるの、もう覚えたしな」
もう覚えているらしい。
「早く取れよ、溶けるぞ〜」
そう言われて、私は無意識にそれに手を伸ばしていた。私のために、買ってきてくれたらしいチョコレート。
「あ、りがとう⋯ございます⋯」
素直に嬉しくて、お礼を言った。
彼が、コンビニの中で、私を思い出していたと言うこと。ドキ⋯とした私は、チョコレートを掴む手が、無意識に強くなった。
その刹那、「なあ」と声をかけてくる蛍が、私を呼び。なんだろうとチョコレートから、蛍へと見つめ返した。
何?
そう思って、首を傾ける。
蛍は少しだけ困っている顔というか、よく分からない顔をしていて。
なんですか?と言おうとした時、「連絡先とか、交換しねぇ?」と、言ってきて。
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