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「それでは、お願いします」 お母さんが、カウンセラーの女性に対して頭を下げる。私はその光景をただ見つめるだけで。 お母さんは「待合で待ってるわね」と私に言う。私はそれに対してもぼんやりと聞いていた。 40代ほどのカウンセラーの女性は私を見たあと、ゆっくりと微笑む。 ―――私は敵ではない。 そんな微笑み方。 「湖都(こと)ちゃん、始めましょうか」 開かれたカーテン。 そこから入る太陽の光。 暗闇が苦手な私にとって、光は安心する。 夜の時間帯は、もう1人で外へ出れなくなった。いや、誰かがついていても出れない。 カウンセラーの女性が、何かを喋る。 私はそれをぼんやりと聞く。 聞いて 聞いて 聞いて。 「―――今日はこれで、終わりましょう。一緒にお母さんの所へ行きましょうか」 気づけば、終わってる。 もう何回目か分からないその話。私はその内容をひとつも覚えていない。 だって、気づけば終わっているから。 私はいつの間にか、家に帰っているから。
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