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10分、ぐらい経っただろうか。寝ようとするフリをしている私の耳に、規則正しい愛の寝息が聞こえたのは。 すー……すー……と、私が盛った薬で眠りについた愛は、私が動いても起きそうになくて。 これは昨日、藍さんが「使え」と渡してきたものだった。速効性の睡眠薬だと藍さんは言っていたけど、本当に睡眠薬か分からないから。 毒物だと死ぬ恐れがある。怖くて愛に使う前に自分の体で試した。毒物や薬物ではなかった……。 本物の睡眠薬。 騙す形で愛に使ってしまった……。眠っている愛を見つめながら、「……ごめんね、」と愛を抱きしめた。 「愛……、ごめんね。……大好きだよ」 もう、会えないかもしれない……。 服を着てから、愛が入れてくれた湯船の湯を止めた。鞄を持ち、もう一度愛が熟睡しているのを確認してから、フロントに電話をし部屋から出た。 ──……配置は、ない。 いつもホテルから出る前に、愛がお迎えの連絡をするから。愛がいない今、見張りはいない。 自由に歩けるということ。 蛍……。 蛍と会うのも、あれが最後になるかもしれない。言い合って、喧嘩をして。私から一方的に別れてしまった……。 蛍……。 愛……。 蛍……。 愛──……。
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