165人が本棚に入れています
本棚に追加
私が〝知ってしまった〟から……。
〝ヤマたち〟を。
帝国の〝裏〟を。
初めから藍さんは私を殺すつもりだったんだ。
自分の手を汚さず、目の前の男に殺させようと仕向けた。
私が目の前の人を殺そうとすれば、私はこの人に殺される。藍さんの〝秘密〟を持ったまま、第三者に知られることはなく死ぬだけ。
この人が死んでも、私が死んでも、藍さんは喜ぶ……。
知られてはいけない──
それがルール──
ルールなんだ。
知れば、〝死〟のみ。
だったら、目の前の彼に殺されるまでが、藍さんの計算だったってことで。
私が、レイプしてきた男がヤマたちだと気づいた瞬間から。
だったら。
だったら愛は?
愛は知ってる。
藍さんのことを。
藍さんは、藍さんは愛を殺すつもりだ。
だって愛も藍さんの〝正体〟を知っているんだから。
「──……っ、」
愛を、愛を守らないと。
藍さんから。
私が死んでも愛は守れない……!!
「──……、ま、まってください……!」
青ざめている私の横を通り過ぎようとしたその人の方に体を向け呼び止めた。歩くのをやめ私を見下ろす男は眉を寄せ。
「……い、いとを……」
手に持っている刃物を、首元に当てた。
男ではなく、自分自身の。
冷たいそれは、咄嗟に首元へ当てたせいで皮膚に少しだけくい込んだ。
「何してる」
そう言った男の声は低く。
「しに、ます、死にますから……」
「……」
「私が、死ねば、愛はもう脅されずに済む……逃げれる……」
「……」
「愛がきても、殺さないで……」
「……」
「お願いします……」
ぐっと、力を入れた。
包丁で、自分の頚部を切るように。
その人が腕をのばし私の手首を掴んできたけど、私の動きの方が早かったようで。
首筋からドクドクと熱が集まるのが分かった。熱くて熱くてその後痛みが出て。ああ血が流れてるって思った時には目の前が真っ白になった。
崩れ落ちる私を支えたのは、私が殺そうとした男で。
「──……馬鹿野郎ッ!!! ──鷹!! 来い!!!」
最初のコメントを投稿しよう!