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私が目を覚ました時、天国に来たのだと思った。だって私は死ぬつもりだったから……。
だけど実際には生きていた。
目の前には愛がいて、「……何やってんだよ……」と、項垂れていたから、生きているんだと実感し。
私の家でもない、帝国でもない。藍さんの家でもない。普通の誰かの部屋……からして、病院でもない。
見渡そうとすれば、首に痛みが走り──起き上がれなく。
「馬鹿なことするな……」と、泣きそうになっている愛は私の手を握った。
愛……と、声を出したかったのに、出せなかったのは首にある痛みのせい。
ここの部屋は見たことがあった。
愛をアイだと疑っていた時、愛によって連れてこられたとあるハイツ──……。
確かここは、愛のお姉さんのカナさんが住んでいた場所で。
「……いと……」
頑張って声を出せば、ぴり……と、痛みが走り。
「…………あいつに、言われたんだな。殺せって」
「……ごめん、なさい……」
「なんで死のうとした…………」
ごめんなさい……。
睡眠薬をもってごめんなさい……。
愛を苦しめてごめんなさい……。
「……これで、 いとが、逃げられると……」
ちゃんと、死ねなくてごめんね……。
生きてしまってごめんなさい……。
「ふざけるな……、…二度とするな……」
強く、包丁を引いたはずだった。血は出たものの、浅かったのか。あの人が止めたお陰か。致死量には至らなかったらしい……。
「……藍さんは、わたしをころすつもりだった……。初めから、わたしを……。ヤマ達のことがバレて……、〝アイ〟が誰なのか知った私を……藍さんが生かすことはない……」
「……こと」
「どうせ死ぬのなら、愛だけは守ろうと思って──……」
「……」
「藍さんの秘密、私もうとっくに知ってたんだね……」
「……」
「愛は教えないフリをしていただけ……」
そうでしょう?と愛を見れば、愛は何も言わず、「薬盛りやがって……」と、文句を言ってきた。
「どうなったの、いま……」
「……」
「わたしたち、どうなるの」
「……俺は、」
「……」
「女を襲えって言われてた。湖都が殺そうとした男の嫁……。あいつは俺を殺すつもりだった。けど……お前のことも、殺すつもりなのは変わらなかった……」
「……」
「湖都」
「…………、……なに?」
愛は、優しく頬を撫でてきた。
「死ぬ時は2人で……。勝手に死ぬな……」
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