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愛は、何も話さない。
だから──それほど、良くないことが起こった。私が眠り続けてから。
藍さんが、警察へ行くほどの──……
「愛!!!」と、私が叫んだ時だった。玄関先から、扉の音が聞こえたのは。ぴくりと反応した愛は、玄関の方を見た。
誰か来た?そう思って焦っている私も玄関の方を見た。
扉を開けて、入ってきたのは──
愛は彼が現れても、特に動揺しなかった。まるで来ることが分かっていたような表情をする愛は、「……向こうは?」と、私には返事をしないのに話しかけていて。
何度か、私の護衛をしていた男。
シンカイと呼ばれていた男は、中に入ってくると起き上がっている私を見下ろした。
その目は不機嫌そうに、眉を寄せていて。
いつもの無表情とは違い、怪訝な感情があるような……そんな表情で私を見下ろした。
「……まだバタついてる、何回か電話したけど出ねぇから」
だけど、シンカイはまた無表情に変わり、愛を見下ろした。
「……悪い、サイレントにしてた」
愛はスマホを出すと、サイレントを解除していて。
「……話したのか?」
「いや…」
「もう切れ、全部この女が悪いんじゃねぇか。愛があれだけやったのに戻ってきやがって」
「戻ってこなくても藍さんにやられてたよ」
「みんな、愛のこと探してる。さすがに俺だけじゃおさまらない」
「……まだ、湖都を放っておけない」
「ほっとけよ」
シンカイは、今まで敬語を話していたはずだった。なのに今は普通に話している。
シンカイは私を見下ろすと、「……馬鹿なことを……」と、冷たく言い放った。
〝馬鹿なこと〟
「やめろ……、藍さんに脅されてた。湖都は悪くない」
「どうすんだ、これから」
「……」
「お前は」
「どうするもなにも、藍さんを警察に突きだした。捕まるようにするだけだ」
「〝帝国〟は?」
「終わりだろ、もう」
「愛……」
「出てってくれ。まだ湖都に話せてない。夕方には顔出す」
シンカイは何か言いだけな表情をするけど、深く舌打ちをし、部屋から出ていく。
残された私は……愛を見た。
また黙りを決めた愛は、顔を下に向けたまま。
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