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雨宮 湖都 高校 2年
「湖都、無理しなくていいのよ?」
お母さんが車の中で、不安そうに見つめてくる。そんなお母さんに大丈夫だよと、笑顔を向けた。
あれから、3ヶ月。
出席日数が足りなくなった私は、2回目の2年生を送ることになった。
今日がその、2回目の2年生の初日。
「終わったら、迎えに来るからね。気分が悪くなったらすぐに先生にいうのよ?分かった?」
「大丈夫だよ、本当に。あれからどれだけ経ったと思ってるの?」
「湖都⋯」
「行ってくるね」
私はできるだけ笑顔を向けて、スクールバックを手に取り、助手席からでた。
校門前の道路で車を停めたお母さん。私を校門に入るまで見送るお母さんを安心させるために、手をふった。
あれから、どれだけ経ったと思ってるの。
その言葉は、私自身にも言い聞かせた言葉でもあった。
ひとつ年下の子達と同じクラスになる、というのとても違和感があった。
名前も知らない。顔も分からない。
1から覚え直しのクラスメイト。
名前も顔も分かる元クラスメイトは、3年生の列に並んでいて。
その列を見たあと、ああ、私は本当に2年生をやり直すんだなって、思った。
午前中で始業式は終わり、お母さんから『待ってるわね』と連絡が来ていた。登下校、これから毎日、お母さんは車で私を送ってくれるらしい。
私が「大丈夫だよ」といっても、絶対にそれは譲らなかった。
見慣れた車に乗り込み、お母さんは「大丈夫?」と声をかけてくる。
それに対して、私は「大丈夫だよ」と笑顔になる。
―――本当は、全然大丈夫じゃなかった。
知らない男が教室にいると思えば、震えが止まらなかった。
廊下で男と当たりそうになれば、動悸がおさまらず。
一刻も早く家に戻り、布団の中に潜り込みたかった。
けど、そんな事をすれば、お母さんは心配する。心配して心配して、‘また’体を壊すかもしれないから。
私は、「大丈夫」と笑顔を向ける。
「どこか食べに行く? 」
「久しぶりにハンバーグ食べたいな」
「じゃあ、ファミレスに行きましょうか」
「うん」
お昼間といっても平日だからか、それほど客は少なく。喫煙席に案内された私達は、テーブル席へと座った。
人が少ないということに安心した私は、座った瞬間お母さんに気づかれないようにほっと肩を下ろす。
料理を注文した後、お母さんは「今のうちにトイレに行ってくるわね」と席を立った。
セルフサービスのお水を入れに行こうと私も席を立ち、ドリンクバーの方へと向かう。
明日⋯
学校行くの、嫌だな。
そう思いながら、グラスに水を入れていく。
カラン―――と、氷が動く。
ぼんやりとしながら二人分のグラスを持ちテーブル席へと戻ろうとした時、ぼんやりとしていた私は、背後にいるその人に気づかなかった。
体がぶつかったというより、両手に持っていたグラスが当たった感覚で。
あ、と、呟いた時には、その人の持っていたグラスが、私のグラスに当たっていた。
パシャン―――と、少量の水が、私のもうグラスから、その人のグラス、そして、手首までもが水で濡れてしまい。
「す、すみ、ませ⋯」
そう言った私の声は、震えていた。
なぜなら分かるから。
顔を見なくても。
グラスを持っている手。
それがどう見ても、男の人の手だったから。
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