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家に帰り、私は引きこもった。
お母さんが「明日、カウンセリングを予約したわ」と、布団にくるまる私に言ってきて。
うんともすんとも言わない私を安心させるために、お母さんは背中をさすってくれる。
―――うわ、何コレ、血やば!
―――ヴァージン乙〜
―――やっぱりぃ?キツいと思った
嫌な記憶。
誰か、この記憶を消して欲しい。
「お母さん、ごめんね⋯」
「いいのよ、ゆっくり休みなさい」
ゆっくりと眠りについた私は次の日、学校を休んだ。予約をとったカウンセラーの女性の元へ行くために。
やっぱりプロなのか、カウンセリングの受ける前より、調子が良くなったカウンセリング後。
「会計行ってくるわね、ここで待ちなさい」
「うん」
お母さんの背中を見送りながら、私は会計の待合のイスで座っていた。
鞄の中からぼんやりと何も考えずスマホを取り出そうとした時、ふと、手から滑り落ちたスマホ。
床に落ちた音が響くも、見た限りではスマホの画面は無事なようで。私は手を伸ばし、スマホを拾おうとした。
けれどもそのスマホは、私では無い、誰かの手によって拾われる。
「落としすぎじゃねぇか?」
男の声。
低く、枯れた声。
その声は、昨日の同じ声で。
「昨日は、零す、だったけど」
少し笑いが含まれているその声の主が、拾い上げた私のスマホを、目の前に差し出してきて。
私は無意識に、顔を上へと上げていた。
私のスマホから、お腹、胸板、首。
そして顔へと―――⋯。
「ゴホゴホっ⋯」と、口元を手でおさえ、咳をする彼の口には、マスクがあり。
マスクで隠れている場所以外に見えるのは、
キリッとした、二重の目。
少しだけ、細い眉。
透き通っているような、明るい茶髪。
咳をやめたその人は、「どうぞ」と、私にスマホを再び差し出してきて。
それに対して、恐る恐る受け取ることが出来たのは、カウンセリングを受けたばかりで心が落ち着いていたからか。
「あ、り、⋯とう、ござい、ます⋯」
スマホを受け取った私は、恐る恐るスマホを受け取り。男は「いいよ」と言った後、何故か椅子1つ分あけ、私の横に座ってきた。
ゴホゴホと席をする彼は、マスク越しの口元に手を置き、咳をしていて。
⋯風邪?
そういえば、昨日も声が枯れていたなと、ぼんやりと思い出し。
だから、病院にいるのかと、心の中で思いながら顔を少しだけ上げた。
周りには、会計待ちでたくさんの人がイスに座っていた。
きっと、この人も会計待ちなんだろうと思えば、少しだけ気が楽になった。
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