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透き通ったような明るい茶髪⋯。
どこからどう見ても、怖そうな風貌だけど。
昨日の水といい、さっきのスマホといい、親切な男の人だと心の中で思っていた。
でも、そんな人でも男は男。
この世で1番、大っ嫌いな人種―――⋯。
ゴホゴホと、苦しそうに咳をする彼に目を向けた時、私はハッとした。
もしかして、この人の風邪は、昨日私が手首に水をかけてしまったからではないか。
どれぐらい服に浸透してしまったかは分からないけど、濡らしてしまったのは確かで。
「⋯⋯だ、いじょう、ぶ⋯ですか?」
声をかけたのは、この人に罪悪感があったから。
それに、この場所には、会計待ちでたくさんの人がいるから。
綺麗な二重の瞳が私に向けられた時、ビクッと、小さく肩が動いた。
「いや⋯、喉がすげぇ痛い」
「そ、それ⋯って、⋯あたしの、せいでしょ、うか?」
「え?」
男は意味分からないという顔をしながら、顔を傾けてきて。
「き、のう⋯水を、かけてしまった⋯から」
恐る恐る言った直後、少しだけ、沈黙が流れ。
ふっ⋯と、喉が枯れた笑い声が耳に届いた後、「あんなのでひくかよ」と、目を細めて呟いてきて。
「風邪気味だったのに、オールでカラオケ行っって、喉潰れただけ」
また、ゴホゴホと咳をし。
「あんたのせいじゃないよ」
息を整えた後、マスク越しで、私に微笑んでくれて。その笑みにホッとした私は、「で、も⋯、ごめんなさい⋯」と、小さな声で呟いた。
「あんたは⋯ってか、名前なに?」
「え?」
「名前」
名前?
いきなり、名前⋯?
初対面の人に、名前を教えるって、どうなの?
「呼び方、‘あんた’でもいいなら、それでもいいけど」
枯れた声で、綺麗な二重を向けてくる男。
男が嫌いなはずなのに、その人からは憎悪が感じられなくて。
「雨宮⋯湖都⋯」
さっきまで戸惑っていたのに、名前をすんなりと教えた私。
「ふぅん、で、あんたは何で病院?どっか悪いわけ?」
名前を教えたはずなのに、「あんた」と言ってくる男。
どこが悪い?
カウンセリングを受けに来た。
なんでカウンセリングを受けてんの?って、聞かれるのが怖かった私は、「私も、風邪気味で⋯」と、嘘の言葉を出し。
「春は体調崩しやすいって言うしな」
呆れたように笑ったと思ったら。
また、ゴホゴホと、咳をだした。
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