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帰り道の車の中で、「大丈夫なの?」とお母さんは眉を下げて聞いてきた。
大丈夫⋯。
分からない。
本音言うと、私自身が1番驚いていたから。
あれだけ喋ったのに、震えていない。
病院の中にたくさんの人がいたからか。
あの人から、憎悪を感じられなかったからか。
それとも、学校の近くで働いているという、身近な存在だと思ったからか。
カウンセリングを終えたすぐだったからか。
「うん、大丈夫⋯だったよ」
「さっきの彼、昨日の人じゃなかった?」
どうやら、お母さんも覚えていたらしく。
「うん、さっきスマホ拾ってくれて⋯」
「そう」
「学校の前で、働いてるんだって」
「学校って、湖都の?」
「うん」
「そう、まあ、無理しちゃだめよ」
「うん、心配かけてごめんね」
「当たり前のことをしてるだけよ」
お母さんは心配そうに、優しく微笑み。
その微笑みが辛い私は、にこりと笑った。
レイプされたあの日から、ずっとずっと私は悪夢に魘されていた。寝ることさえできず、食事もままならず。誰がどう見ても狂っていた私のそばにいつも居てくれたのは、お母さんだった。
そんなお母さんが倒れたのは、事件から1ヶ月がたったころ。寝不足と過労で、お母さんは限界を迎えた。
同然だ。
悪夢に魘されれば、お母さんはすぐに「大丈夫よ」と起こしてくれた。
いつでも起こせるように、お母さんは眠っていなく。
私を1人にしないように、そばにいてくれて。
倒れたお母さんを見て、このままじゃダメだと思った。
お母さんに心配かけないように、笑おうと。
でも、やっぱり親であるお母さんは、私の些細な異変にすぐに気づいてくれて。
何度も何度も「大丈夫?」と聞いてくる。
それに対して、「大丈夫だよ」と笑う私は、ちゃんと笑えているのだろうか。
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