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富を手にしたものは究極を求める。最高の家、最高の車、最高の旅、最高のサービス。様々な趣味嗜好がある中、共通することがある。それは、最高の食事だ。
ジャンクフードなど絶対に口にしない。最高級の材料を使い、一流のシェフが作る料理に舌鼓を打つ。そうして最高の料理を食べ続けると、次は珍しいものに目をつける。
誰も食べたことがないもの。普通は食べないようなものを、調理次第で食べられるようにできたとき。羨望の眼差しが待っている。
「日本という国はイカレてるぜ。毒があるフグやウナギを高級品として食べ、食べられそうにない芋を手間暇かけてコンニャクという食材にして食べてる。他に食べ物があるのにも関わらず、だ。フグを食べたが全然美味しくなかったね」
「はっはっは、そこをイカレていると言っているうちはまだまだ青臭い証拠。そこまでして食べることに執着した民族ということだよ。島国で他国との交流も少なかった、決められた土地でいかに食べ物を確保するか。先人たちの知恵だよ」
そんな、自慢と皮肉が入り混じるここは「名前のないレストラン」だ。紹介でしか入ることができず、そもそもどこにあるのかもわからない。オーナーも不明、出てくる料理も調べることができない。
そこに行けるのが一つのステータスなのだが、当然正体不明なら行ったと嘘をつく者がいる。しかしそれが一変した出来事があった。
世界の半導体製造シェア六割を牛耳るメーカーの若きオーナー、ジェイス。彼がパーティをしたときのことだ、レストランに行ったという。そこにいる者が全員痛感した、ああ本当に行ったのだと。
何故ならそれを語る時の表情が別人のように違う。口調は柔らかく、人間嫌いで有名な彼がパーティを開いて自慢話をしてしまうほどだとわかった。
「人は食に、命に支えられて生きている。それがいかに素晴らしいかわかる、最高のレストランだった」
他者に常に厳しくあたり機嫌が悪そうな顔しか見たことのない彼が、美しい女神を目の当たりにしたかのような。極上の微笑みを浮かべてしまうほどの体験。
その日から嘘ぶいていた者は一目でわかるようになり冷めた目で見られた。ジェイスの元には紹介してくれという依頼が殺到した。
勿論ジェイスは誰も紹介しなかった。いつもの険しい顔つきになり「二度とそのツラを見せるな」とバッサリ切り捨てるだけ。
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