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僕は机に顔を埋め、一人泣いていた。
大切な家族だった君を失った。どんな時でも僕の心を癒してくれた、天使のように無邪気で可愛らしい君は、もう遠い空の向こうへと旅立ってしまった。
「君に会いたいよ」
声を震わせた、その時、すぐそばにある窓が大きな音を立てた。髪を乱すほどの強い風。驚いて顔を上げる。部屋に差し込む月明かりの中を、いくつもの純白な羽が舞っていた。そのうちの一枚が机に広げられたノートの上に落ちた、かと思えば、羽先を真っ直ぐ上に向けた。
僕は目を見開く。羽は白い平面を滑り出すと、
『わたしよ』
という文字を書いた。
「そんな、まさか」
僕は生唾を飲む。
「君なのかい?」
問いかけに対し、
『そうよ』
と、文字で返される。
『落ち込むあなたのために、神様からお許しをもらって天から舞い戻ってきたの』
羽は再び動き出すと、
『ねぇ覚えてる? この前家で一緒に観た映画ってさ――』
次々と思い出をノートに綴っていく。
ハンバーグを焦がして一緒に慌てたこと、同じテーブルで食事したこと、寒い夜には寄り添い合って寝たこと、共に笑い、ないて、感情を分かち合った日々のこと――
蘇る温かな記憶。僕の心は次第に氷解していった。
「ありがとう」
腫れた目元を拭い、
「おかげでもう大丈夫だよ」
僕は精一杯の笑顔を浮かべる。
『よかった、これで私は』
段々と動きが鈍くなってきた羽は、
『安心して空へ』
ふいに魔法が解けたかのように、静かに横たわった。同時に、宙を漂っていた無数の羽も、ハラハラと床に舞い落ちる。僕はノートを手に取り、思い出で埋め尽くされたページに目を落とした。
「例えいなくなっても、思い出までは消えない……か」
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