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私もそう思う。私だったら嫌だ。高級ホテルならいざ知らず、街中のラブホだ。お手軽でお安いが売りのはず。
「しかもうちの近場のラブホよ。信じられる?」
和樹は渋い顔のままだ。
私はされ妻。和樹はされ夫。不倫がバレた場合、男の方が社会的なことを考え、家族のもとに帰ることが多いという。でも、女の場合は逆だ。
和樹は棚田未唯と離婚するのだろうか。
「あのさ、この鍵ってさ、この家の鍵じゃないよな?」
和樹がため息混じりに私に鍵を見せた。
「違うよ。うちはディンプルキーだから。それにうちの夫は、別宅を借りるほど未唯さんにお金をかけないと思う」
「どうして?」
「未唯さんには悪いけど、うちの夫はケチなの。セックスにお金をかけるほうじゃない」
「でも、未唯とは長かっただろう?」
「サラリーマンだからそんなにお金はないの。私はパートしているし。うちには中学生の子ども二人がいて、一人は今年高校受験なの。お金が一番かかる時期よ」
「大した稼ぎじゃないんだな。でも、未唯と旅行に行ったらしいじゃないか」
太一を馬鹿にされムカつくが、黙っておく。
「太一の分は会社の出張費よ。未唯さんは自分の分は自分で出したんでしょ」
「え? そうなのか」
「太一はビタ一文自腹を切ってないの。だってケチだもの」
「そういうことか。未唯の一人相撲か」
和樹は小さく笑った。
「うちの子、稜也くんと同じクラスだったものね」
「しかも、稜也はお宅の娘と付き合っていたんだぞ。それを親の不倫で苦しんで別れたって知っていたか。稜也がどんなにショックをうけたか」
「知ってるわ。それから、ちゃんとうちの子どもたちにも不倫のことを話したから」
稜也くんの心変わりで二回で別れているとは、和樹に言えなかった。
「仕事中、偶然、未唯が男とホテルに入っていくところを見たんだ。驚いたあまり、取引が失敗したよ。くそっ、あいつにも絶対に同じ目に合わせてやる」
「はあ。そうなのね」
和樹の闇が深い。仕事中に未唯の不倫を知ったのか。ショックだったろう。それで取引が失敗したというなら、太一を社会的にも苦しめたいという気持ちにもなるだろう。太一に同情の余地はない。
「だから一億は譲れない」
「そうなんだ」
短く相槌をうつ。
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