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顔色が悪いのは、具合がわるいのかも。それとも何かあったのか。嫌な予感がした。
「うん、人違いで刺されちゃったみたい。嫌になるわ」
「無理するなよ。実はさ、俺、スマホをなくしちゃってさ」
「え?」
太一の顔が青いのは、そういうことか。早めに帰って、スマホを探しにいこうとしていたのね。納得である。
一体いつから失くしたのか。よくわからないけれど、太一がいやに慌てている。
誰かに拾われて悪用されたら大変なのは分かるけど、ロックもしてるだろうし、Face IDもある。
「あ、判子を持ってきて? 急いでくれ」
「あ、はい。ちょっと待っててね」
急いで階段を駆け上がり、判子を取ってきた。
「ありがとう。ごめん。本当にごめんな。手、大丈夫? ご飯はみんな先に食べていていいから」
「うん、わかった。手は病院で診てもらったから大丈夫」
太一は肩を落として、また外へ出て行った。どうやらスマホを探し回るようだ。判子がいるっていうから、最悪、警察に紛失届を出すつもりなのだろう。大丈夫なんだろうか。
データはパソコンにバックアップしてあるだろうし、誰かに連絡を取りたいならなんとかなると思うけど。
太一はスマホが大好きだものね。ご飯の時もお風呂の中までもスマホを持って行く太一である。失くしたなんて大打撃だろう。
「あれ、パパ帰ってきたんじゃないの?」
社会の問題集を片手に沙耶が三階から降りてきた。
「帰ってきたんだけど、スマホを失くしたから探しに行くって」
「え? スマホを失くした? どうやって失くすの? あんなに四六時中触っているのに」
「失くすとかあり得ない。まずくない?」
恵茉が顔を顰めた。
「ほんと、不思議だよね。どこでどうやって失くしたんだろう」
「パパさ、自分はご飯の時もスマホをいじっているのに、私がご飯の時スマホを触ると怒るから、ちょっといい気味だよ」
「それはいじる方がマナー違反なんだよ。どっちにしろ、ご飯の時はスマホは禁止」
沙耶は恵茉を睨む。
「そうだけどさ。お姉ちゃん、私の気持ちはわかるでしょ?」
「まあね」
「さ、先に食べちゃいましょう。パパがいいって言っていたから」
「ふーん」
沙耶と恵茉はテーブルについた。YouTubeをテレビで見ながら夕飯を食べ始める。
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