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「具合まで悪くなっちゃったの? 寒かったものね。スマホなら探せるわよ。アプリとかで。パソコンにバックアップもあるでしょ? 見つからないなら新しいiPhoneを買ったら? 大丈夫。なんとかなるわよ。あ、クレジットカードは止めたら? 早い方がいいわよ」
励ましながらそっと提案する。
「あ、そうか」
太一の目に生気がいくらか戻った。
珍しい。太一がお礼を言うなんて。私は目を丸くする。
「あのさ、俺がちゃんと唯香の面倒見るから。病気の治療も死ぬまでちゃんと面倒みるから、だから一緒にいよう。一緒にいてくれ」
「う、うん。ありがとう」
なぜ? わざわざ、今言う? 何のアピール?
首を傾げていると、太一は寂しそうな顔をした。
相当スマホを失くしたことが堪えているのね。スマホ奴隷だったものねえ。インスタグラムもできないし、連絡を取りたい人がいるのだろう。
「それにLINEなら設定してあればパソコンからでもできるんじゃない? インスタグラムもパスワードを覚えていれば、ウェブからでも入れるわよ。調べてみたら?」
「そうだな。本当にありがとう。ちょっといろいろやってみる」
太一は一階の自分の部屋にこもってしまった。
沙耶も恵茉も風呂に入ったし、太一はなんだかあちらこちらに家の電話を使って電話をしているみたいで忙しそうだ。会社のスマホを失くしたんじゃなくて、本当によかったと思う。下手したら、会社をクビになってしまうだろう。
太一の部屋のドアを横目に私は脱衣所に入ると、二階からインターフォンの音が響いた。
裸になっていなくてよかったと思いながら、慌てて二階に駆け上がる。こういう時にインターフォンを一階にもつけなかったことを後悔する。
「はい? どちら様ですか」
もう夜の十一時を過ぎている。こんな時間に誰が来たの?
「ああ、私よ。開けてくれる?」
電車で三〇分の所に住むお義母さんがやってきた。
なぜ? どうして? こんな夜に?
頭の中に疑問符が飛ぶが、お義母さんを外に出しておくわけにいかない。急いで階段を駆け下りて、玄関の扉を開けた。
「ごめんなさいね、夜遅くに」
「はあ」
戸惑いながらスリッパを出す。ちらりとお義母さんの様子を伺うと、お義母さんの顔色も良くなかった。
「母さん!」
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