され妻の夫は宇宙人(改訂版)

25/113
前へ
/113ページ
次へ
「とりあえず、お茶の準備をしてって言われたから」  ヤカンに水を入れて、火にかける。 「ちょっとお湯見ていて? ママ、一階の様子見てくる」  胸騒ぎがした。何かが始まる予感。なんだろう、危ない気がする。手を差されて気が立っているせいか。 「わかった」  沙耶と恵茉は頷いておしゃべりを始めた。  廊下は冷えていた。電気をつけないまま一階の太一の部屋のドアの前に立つが、太一とお母さんの声はあまり聞こえてこない。 なんだ、徒労じゃないか。寒い廊下にいるのも馬鹿らしい。リビングへ戻ろうと踵を返すと、大きな声がした。 「俺、殺されるかもしれないだよ。もう時間がないんだ」 「たしかに危ないわ。どうしようかしら」  お義母さんの声がした。  殺される? まさか太一が? ええ? 「おもいっきり殴られた。怖かった。死ぬって思った。車の中で暴力を振るわれたんだよ」 「ちょっと、静かに。唯香さんに聞こえちゃうから」  お義母さんが宥める。 「すぐに弁護士の従兄に相談したわよ。親戚だから腕は確かだし、信頼できるわ。安心して」 「え! 従弟にバレたの? 弁護士はいいけど、あいつにバレたなんてやだなあ」 「何言っているの! 緊急事態じゃない。私だって嫌だったのよ。こんなこと頼むなんて。でも太一が襲われたっていうし、車に拉致されたっていうから、やむなく相談したのよ。太一、これからどうするの? 一人でどうやって解決するつもり? 早く唯香さんに言わないとダメよ。分かっている?」 「警察には連絡したよ。唯香には言えない。子どもたちにも言いたくない。言ったら大変なことになる」  太一の苛つく声が聞こえる。 「言えないようなことをするのが悪いのよ!」  お義母さんの怒声が聞こえた。  スマホを失くして眼鏡が歪んだのは、なぜ? 何があったの? 何を隠しているの?  私は眉間に皺を寄せる。  どうして一番最初に私に、私たちに相談してくれないの?  悲しくなった私は、ゆっくりと階段をのぼった。ショックだった。 「どうだった?」  沙耶がわたしの顔色を見る。 「なんか、殺されるとか言っていた」 「ええ!」  沙耶が目を丸くする。 「マジで?」  よほど驚いたのだろう。恵茉は口を開いたままだ。 「警察に言ったとか、弁護士を頼んだとかって。従兄の」
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加