55人が本棚に入れています
本棚に追加
太一の様子が気がかりだ。あの慌てよう、太一は何を隠しているのか。やっぱり聞かないといけないだろう。大きなトラブルになってないといいんだけど。
思わずため息が出た。
太一はすぐにキレるからなあ。憂鬱になる。余計なことを聞くな、関係ないってまた怒鳴られるのもいやだから放っておきたいけれど。お義母さんが絡んでいるということは、私が出る幕じゃないんだろう。お義母さんが解決してくれるなら、それがいい。私と子どもたちに何も影響がないなら、家庭は平和だし。
何かみんなで食べるおやつも買おうかな。お腹を空かせて二人とも帰ってくるだろう。ちょっとお値段が高い、美味しいそうなパンでもいいかも。
銀座へ行く電車は空いていた。ふとスマホを見ると、恵茉と沙耶からメールで連絡が来ていた。
恵茉はもうすぐ家に帰るらしい。沙耶は学校の帰りに塾に行くとある。塾にある自販機でパンやお菓子でも買って食べるのだろう。
ああ、恵茉と太一の昼ご飯を作らないといけない。デパ地下をうろうろする時間がないじゃない! ああ、残念。少しお昼が遅くなっていいか、聞いてみようかな。
文字を打っていると、スマホのバイブがなった。
『今すぐ帰ってきて。ごめんなさい。本当にごめんなさい』
太一のLINEを開封すると、謝罪の言葉があった。あの、謝らない太一が謝っている。何があったのだろう。
『え? 帰ってこいってどういうこと?』
『今電車に乗ったばかりなんだけど』
思わず連続で二回返信を打つ。
『ごめん。俺、実は脅迫されていて』
「はあ?」
思わず大きな声が出た。電車の中にいた数人が私の方に視線を向ける。
ギュッと目を閉じて、息を吸う。
LINEになんて書いてあった? ええ? 脅迫? 恐る恐るスマホの画面を二度見する。
『何かあったら大変だから、今すぐ帰ってきて。弁護士の従兄にも警察にも相談したから。相手の旦那が逆上して何するかわからないし』
太一から返信が来た。
帰るしかない。お菓子、買えていないけど。もうすぐ銀座に着くんだけど。ええ? 相手の旦那って何? どういうこと?
心臓のバクバクいう音を聞こえ、手足から血の気が引く。何があったというのだろう。嫌な予感しかしない。
とりあえず、帰らないと。
あわてて反対側の電車に乗り換えた。
最初のコメントを投稿しよう!