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買い出しを急がなくてはいけない。今日は沙耶の塾もある。お母さん業も大変なのだ。 恵茉の姉の沙耶は、現在中学三年生。沙耶も「恵茉は稜也くんに遊ばれている」と判断していた。ただ、夢中になっている恵茉に何を言っても聞かない。沙耶と私は、恵茉が振られたら慰めてあげようと決めていた。
雨が止んでいることを祈りながら薄手の羽織物を探す。傘を差してエコバック二つ持ちはつらい。正直、あるもので夕飯作りは澄ませたいが、冷蔵庫には食材があまりなかった。
「コーラとフライドポテトを買ってきて。ママがポテトは揚げてね」
「わかった。そのうちお姉ちゃんが帰ってくるから、玄関開けてあげてね」
苦笑しながら、沙耶に先回りして恵茉の状況をLINEしておく。
『やっぱり。あの子、ぜったいまたやるって思っていたのよ。恵茉がかわいそう』とすぐに返信がきた。
外に出てすぐに冷たい北風に襲われた。
寒い。手がかじかみそうだ。手袋持って来ればよかったと後悔した。
視線を上にあげると、家の目の前の建設中の病院に灯りがついていた。大きな建物である。 明日から新しい建物で診察を再開すると貼り紙が貼ってあった。家の近くに新しい病院があるのはうれしい。実は狭心症で心臓カテーテル治療の手術をしたばかりなのである。この病院の旧建物の方で入院していたので、新しい病院で入院できていればよかったかなと思ったりもする。ちなみに夫の太一もこの病院の、眼科によく通っている。ご近所の駆け込み寺的な大きな病院だ。
「あの、すいません」
「はい?」
振り返ると三十代半ばの男性が立っていた。好みにもよるのだろうけど、なかなかの好青年だ。道にでも迷ったのだろうか。
「あの、アプリの方ですか?」
「は?」
一瞬何を言っているのか分からなかった。
最近、この新しい病院の前で声をかけられることが多かった。先週も男性に話しかけられたんだよなあと思い出した。
アラフォーなのに、モテている? いや、待て。ありえないだろ。宗教とか、詐欺とか何かあるかもしれない。
「あ、いえ。すいません。違っていたようです。待ち合わせの人に似ていたので」
「そうなんですか」
首をかしげているうちに男性はいなくなってしまった。
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