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棚田和樹の衝動もわかる気がした。自分の妻と寝ていたとか、プライドが許せないだろう。太一が痛い目を見ていい気味である。私の代わりにやってくれたように思えた。
ダメだ。いろんな気持ちが混ざって、思考がまとまらない。
こめかみがズキズキする。脳みそが処理できなくて、頭に血が上っているのが分かる。
あ。まずい。
沙耶は学校の帰りに塾に行くって言っていた。沙耶が危ない。復讐するなら、女で弱い私か沙耶、恵茉だろう。
LINEするも、既読がつかない。緊急だから仕方がない。数回スマホから電話をして、着信履歴を残す。緊急の連絡の合図だ。気が付いた沙耶がすぐに折り返し電話をくれた。
「どうしたの? 急ぎ? 今塾なんだけど」
「沙耶、今すぐ帰れる? パパが不倫した」
「え? えええ? まあ、なんとなくわかっていたけどね」
「で、相手の旦那に一千万円要求されているって」
「はああああ?」
沙耶の大きな声が聞こえた。
「パパね、殺されるって言っているの。それに危ないから沙耶も私も家に帰るようにって連絡が来た」
「ええ? どうしても帰らなきゃだめ? もう授業始まるんだけど」
「ちょっとまずいと思う。パパ、スマホ失くしたって言っていたじゃない? あれって、拉致られて、スマホを取り上げられたらしいの。たぶん、逃げないようにかしら」
「……バカじゃないの?」
沙耶が呆れた。
「悪いことしたのはパパなんだけど、今朝、うちに手紙を相手の人が届けに来たのよ。で、私や子どもたちも拉致されるかもしれないって思ったみたい。とりあえず帰ってきて」
「わかった」
沙耶は渋々承諾した。恵茉に連絡すると、恵茉はすでに家に帰っていた。楽しくゲームしているらしい。
『パパも家にいるよ』と恵茉がついでに教えてくれた。
太一ももう家にいるのか。恵茉の前でどんな顔しているんだろう。不倫がバレて、どうするつもりなのか。太一のことだから、恵茉には話をしていないのかもしれない。私が説明しないといけないなあ。しかし、一千万円なんてどうやって支払うのか。見当もつかなかった。
ちょっと待ってよ。
私はハッと気がついた。
じゃあ、私も太一と棚田未唯から一千万円もらってもいいのかな。離婚したら、私が子どもたちを育てないといけない。それくらいお金がないと心配だもの。
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