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パパもたまには一緒に夕飯を食べたほうがいいだろうと思ったんだけど、沙耶と恵茉はお腹が空いているのだろう。仕方がないか。
「パパは、絶対、誰かと食べたよ。最近おかしいもん」
「嬉しそうにニヤついてスマホばっかりいじるし。今日は早く帰ってくるっていうけど、最近帰りが遅いよね」
恵茉も沙耶に同意した。
「そうね、先に食べていいわよ。もうちょっとだけママは待ってみるね」
「いただきます」
恵茉はフライドポテトに手を付けた。
「美味しい。ママが揚げてくれたフライドポテトなら、ニキビができないから安心して食べられる」
高校受験を控え、厳しい顔つきだった沙耶も明るい表情になる。
「塩をもうちょっと振ってもいい?」
部活してきた恵茉には塩分が必要だったようだ。もう一度塩を振ってあげると、嬉しそうに食べ始めた。
「推薦入試って大変なの?」
「作文と面接があるんだよ。学校によっては試験があったりするみたいだけど」
「そ、それはお姉ちゃん、大変だねえ」
莉嘉は呑気な声だ。
「あんたも推薦入試を受けたいなら、ボランティアしたり、英検とったりして、成績と内申の点数を上げるんだよ」
「うわ、そんなことしないといけないの? 面倒くさい」
沙耶の熱い語りに恵茉は肩をすくめた。
玄関の開く音がした。
「おかえりなさい」
慌てて迎えに行くと、夫の颯太は無言で洗面所へ向かった。
「ご飯できてるよ。食べる?」
颯太の背中に声をかけるが返事はない。子どもたちの言うように、誰かと食べてきたのだろうか。
「パパ、おかえり。ママ、私、もう行かないと。遅刻しちゃう」
「いってらっしゃい。自転車でも暗いから明るい道で帰ってきて」
「はいはい」
沙耶が適当に返事をしながら、前髪を洗面台でいじっている。
「早く行きなさい。雨なんだからあ」
「なんだ、沙耶は塾か?」
「そうなの。推薦入試までもう少しだから追い込みなんだって。一月二十六日、あと三日よ。すぐに夕ご飯食べる?」
「ふーん。高校なんてどこでも受かればいいよ、受かれば。女だし、どこだって。あ、俺、ご飯はいらないから」
太一は背広を脱ぐ。
なんだ、先に食べてよかったのか。子どもたちの言う通り。でも、早く帰ってきてくれただけで嬉しかった。
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