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どうやら太一が恥をかけばいいらしい。出世の道を閉ざされ、閑職に追い込みたいのだろう。本当に気持ちはよくわかる。
「とりあえず、和樹の気持ちは分かったから。太一と話し合ってみる」
「あのさ、唯香も俺と同じ気持ちだろう? うちの未唯に会いたいか?」
和樹は不安そうな顔をする。未唯を心配しているのだろう。私がお宅の奥さんと会ってどうしろと言うんだろう?
「ううん、別に会いたくない。会っても仕方ないし。キャットファイトなんかしたくない。それに和樹が窓口なんでしょ」
和樹はホッとしたように小さく頷いた。
和樹のように、私が未唯に手を出すことを想像してみる。
いや、やらないな。罵る? 怒鳴る? これくらいできそうだけど、未唯と太一、二人が悪いしね。それに汚いものに触りたくない。
「これ、未唯さんに返しといて。中にポイントカードも入ってるから」
和樹は袋の中身を見て目を剥いた。
「これは?」
「お宅の奥さんがうちの夫のバックにいれたものと、ラブホのポイントカードよ。名前は未唯って書いてある」
和樹が片方の唇の端を噛みしめる。腹が立つよね。私もショッキングでした。お裾分けできてよかったです。
和樹は後ろを振り返ることなく、早歩きでいなくなった。姿が完全に見えなくなってから、私は玄関の扉を開けた。
スマホを聞いていた太一は顔色が悪い。当然と言えば当然か。
「もうしないから。絶対に唯香と離婚したくない。許してくれ」
いやいや。今そういう話はしていないから。
私は片眉を吊り上げた。
「今考えなきゃいけないのは沙耶の受験のこと。あと二日で推薦入試なんだよ。わかってる? 面接もあるの。棚田家と早く決着をつけないと、沙耶が受験で失敗しちゃうでしょう」
「わかってる。でも別れたくないんだ。出ていきたくない。家族でいたいんだよ」
太一が必死で主張する。今は正直、考えられなかった。
「だったら、なんで不倫なんてしたのよ」
「誘われたから?」
全く悪びれてない。気持ちがなければ、いいのかよ! こら!
心の中で叫ぶ。
「誘われても断ればいいでしょ」
「なんで? ほぼただでヤラセてくれるのに?」
太一はきょとんとする。発想もなかったのか。お前の倫理はどこに消えた?
「ヤッてどうなったの? 今の状況、わかってる?」
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