仕事の依頼

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仕事の依頼

「ユウちゃん、お願いがあるの!」  その言葉を聞いて、(かがみ)ユウは目の前に座る人物をじろりと睨んだ。  凍りつく空気。しばしの沈黙が流れる。  しかし、彼の鋭い目つきや沈黙の重圧にひるむことなく、その人物――藤原ナツキは店内に響き渡るくらい思いっきり手を合わせた。 「そこをなんとか!」 「嫌だ! 断る」  ユウはキッパリとそう言った。その途端、うっすらと涙目になるナツキを見て、ほんの少しだけ心が痛む。でも、こういう「お願い」はハッキリと断らなければならないとユウは学んだのだ。このの「お願い」に付き合わされると、毎度大変な目に合うから。 「そんなキッパリ言わなくてもいいじゃん」 ぶうたれたナツキは、拗ねてテーブルに突っ伏した。 「……急な依頼は、断るようにしている」  他の案件に支障をきたしかねないからな、そうユウはボリボリと頭を掻いた。 仕事の話かよ……。と思わず仏頂面になる。  プライベートとか、そういう何か親密な話しかと思って飛んできたのに……。  ここは、ユウの住むアパートから徒歩十分のところにある喫茶店だ。  仕事が休みだったユウは、ナツキから悩み事を聞いてほしいと言われ、この喫茶店〈カフェ・ドルチェ〉に訪れた。  ナツキはユウの想い人であった。  だから、休日の急な誘いでも飛んできたし、彼女に何か深刻な悩みがあるのかと心配になって気が気じゃなかった。  ところがそんなユウの想いとは裏腹に、ナツキから開口一番に聞かされたのは、悩み事ではなく急な仕事依頼だったのだ。 「そんなツレないこと言わないで、ユウちゃん!」  おねえさん、困っちゃう……とナツキはクネクネと身体を揺らしながら、右手の指先を口元に当てて涙目になった。 「その年で、その仕草は正直イタイぞ」  わざとなのは分かってるんだ、とユウは頭を抱えた。 「いい年って……。相変わらず生意気ね!」  まったく……。そう言ってすぐに涙を引っ込めたナツキは、眉を吊り上げた。 「……で、悩み事っていうのは?」  休日の昼に怒られるのはご免だ、そう考えたユウはすぐに話を元に戻した。 「やっぱり聞いてくれるのね! 優しいな、ユウちゃんは」 「仕事だからな」  それで? とユウは次を促した。 「……」  嫌な予感が的中して、ユウは大きなため息をついた。  ユウはある特殊な仕事で生活を営んでいた。  特殊な仕事というのは、事故や病気で亡くなった人間の魂を癒すという仕事だ。  霊媒師のように霊を払うのではなく、あるを用いて傷ついた霊を治す。  亡くなったときに身体から飛び出した魂は、必ずしも元気だとは限らない。  事故や病気で亡くなってしまったり、生きていた時に膨大なストレスを抱えていた場合、魂に傷がついてしまうのだ。  傷の種類は様々だ。事故に遭った時の傷がそのまま残っている場合もあれば、精神的なものだと切り傷や火傷跡に見えたりもする。  そういった傷を治すのが、ユウの仕事である。  その仕事柄、ユウは霊媒師や霊能者から「幽霊のお医者さん」と呼ばれていた。  
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