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出会い
ユウは翌週、ナツキに指定された民家へと向かった。そこに例の男性の幽霊がいるという。
名前は大塚昭。ナツキに渡された写真に映った彼は、話しかけにくそうなオーラを纏っている人物だった。
彼の自宅に着くと、おそらく大塚と思われる霊が花壇の近くで身動きすることなく何かを眺めていた。
「――こんにちは」
「……」
顔を上げた。彼で間違いない。
彼はなにやらモゴモゴと口を動かし、こもった声で話し出した。
「きみが、『幽霊のお医者さん』かい?」
「はい、そうです。鏡ユウと申します」
ユウは軽く頭を下げて名刺を渡した。
「あぁ、すまないね。もう、名刺を手元に持っていなくて」
ごめんな、と大塚は謝った。
「いえ、お気になさらず」
「……ひょっとして、私の傷を治しに来たのかい?」
「は、はい。そうです」
とんとん拍子に話しが進んでいくので、ユウは驚いた。
「藤原さんから話は聞いてるよ。悪いねぇ。こんな老いぼれのために」
「老いぼれだなんて。まだ五十代じゃないですか」
「そんなことないよ」
「……」
ユウは一瞬何と言えばいいか悩んだ。世間一般で言う五十代は若いとも言えないし年寄りとも言えない。
「……えーと。藤原から聞いてると思うんですが、魂の治療には、大塚さんの大切なものが必要なんです」
「……ミニひまわりか」
「はい」
「わたしが死んだときはまだ元気だったんだけどね。つい最近、枯れてしまったんだよ」
ほら……。
そう指さした先には茶色く枯れてしまったミニひまわりがあった。その葉はカサカサとしていて、木枯らしがふけばすべて散ってしまいそうだ。
「ミニひまわりが枯れてしまったということは、私の魂は治せないのかね?」
大塚の声は震えていた。それは寒さが原因ではないことは、ユウには分かった。天国に昇ることなくこのまま地上に留まり続ければ、じきに悪霊になってしまう。そのことが大塚を不安にさせていることは、一目瞭然だった。
しかし、ミニひまわりのエネルギーを借りないと、大塚の魂を直すことは不可能だ。
それならば取るべき選択肢はたった一つ。
「……育てましょう」
「なにを?」
「ミニひまわりを、もう一度育てましょう。僕と大塚さんの二人で。今の時期なら、まだ間に合いますよ」
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