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ミニひまわり
ユウが項垂れる一方で、大塚は顔を上げた。そして、何かを話したそうな顔をした。
「……。どうしたんです?」
ユウは信じられないような気持ちで彼を見た。
「――実はミニひまわりは私の好きな花ではなく、私の妻が好きな花だったんだ」
大塚の瞳は、悲しみに耐えるように潤んでいる。
「……奥さんがいらっしゃったのですか?」
会話のキャッチボールに成功したユウは、戸惑いがちに聞いた。
「あぁ。若くして事故で亡くなってしまったんだけどね。まだ三十五歳だった。彼女は事故に遭う日の朝も、ミニひまわりの世話をしていたんだ。『ミニひまわりは、あなたが初めてくれた花だから大切なんだ』って言いながら」
「……」
「だから妻が天国に旅立ってすぐ、私が彼女の代わりにミニひまわりを育てようと思った。そのまま放置してしまったら、彼女が悲しむと思ってね。それから私は、妻のために毎年ミニひまわりを育てるようになった」
それが、一番大切なものになった理由かとユウは納得した。
何としてでもミニひまわりを立派に咲かせなければ。大塚の魂を治すために。そして先立った奥さんの供養のために。
この夫婦にとって、ミニひまわりは「絆」なのだ。
「私は今、とても嬉しいよ。妻の愛したミニひまわりをまた育てることができるなんて」
鏡くんには感謝しなくちゃな、そう言って大塚は笑顔になった。
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