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報告
「――ユウちゃん、ひまわり渡しちゃったの?」
「あぁ。奥さんが天国で待っている気がしたからな」
「やーだ、もう! ユウちゃんって、見かけによらず優しいよね」
「……一言多いぞ」
せっかくの休日なのに、〈カフェ・ドルチェ〉で、ユウはナツキに業務報告をしていた。
メールで彼女に資料を送ったのだが、直接会って詳細を知りたいと言われたため、こうして喫茶店にやってきたのだった。
「ミニひまわりを育てるユウちゃん。なんだかとても可愛いわね」
「……可愛いって言われても、嬉しくないんだが」
「一枚くらい、水やりしてる写真、撮っておくんだったわ」
「……」
聞く耳を持たないナツキをみて、ユウは不貞腐れた。
クルクルと木のマドラーでフルーツティーを混ぜる。
桃色のジェラートがゆっくりと不規則に溶けていくのを見て、女心は分からないと思った。
「そうそう」
ナツキがガサゴソと鞄を漁る。ユウは何事かと思い、彼女の手元に視線を送った。
「この人なんだけど」
ナツキはテーブルの上に一枚の写真を置いた。
「ユウちゃんに、お願いしたいことがあるの」
「――断る」
「そんな冷たいこと言わないで! もし今回の依頼を引き受けてくれたら、ミニひまわりを渡したこと、同業者と私の上司には黙っておくから」
「……」
じろりとナツキを睨む。
そして、ユウは内心がっかりしていた。せっかくそろそろ仕事以外の話ができそうな雰囲気だったのに……。急に新しい仕事の依頼をするのはやめてほしいと思った。
「……家賃半年分なら、引き受けよう」
仏頂面で、言った。
「ちょっと! 大幅に値上がりしてるじゃない!!」
「知りません!」
ユウはお会計の伝票と写真を持って、席を立ったのだった。
〈了〉
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