3・負け続けの恋愛戦歴

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「それから、暫く、恋はもう良いかなと思って……。少し疲れちゃったし、『好き』ってどんな気持ちだったかもわからなくなっちゃって……でも……」 「……また恋をしたの?」  私は、紗雪さんの質問にコクンと頷いた。 「……短大の、先生に。そんな、凄いカッコいいって人じゃないんです。いつもヨレヨレのエプロンを着て、髭も剃ったり剃らなかったりで……おっちょこちょいで、よく躓いていて」  きっかけは、特にない。気が付けば、目で追っていた。短大のベンチに座り、時々遠くを眺めているあの人を。 「優しい人柄は周りのみんなも気が付いていて、何か悩みがあるとみんなで零しに行っていたんです。それを、ニコニコしながら聞いてくれて……最後は『大丈夫だよ』って言ってくれるんです。それが妙に説得力があって、ほっとしてしまうような、そんな安心感のある人なんです」    別に、先生の恋人になりたいと思っているわけじゃない。  それでも、彼が困っていたら真っ先に手を貸した。毎日購買の菓子パンを食べていたから、甘いものが好きなのかなと――懐かしいクッキーを作ったりもして。    報われない方が、ずっと素直に『好き』でいられた。 「彼の事情を知ったのは、偶然なんです。祖母の病院に付き添いで行った時、ばったりと会ってしまって」 「……病院?」    私は、紗雪さんの言葉にまたコクンと頷いた。誰にも言っていない先生の事情。通りすがりの彼女にだから、言う事が出来た。 「……奥さんが、ずっと眠ったままでいるそうなんです。20年近くずっと……」
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