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二人はベッドの上に腰掛けており、リリザが身を乗り出すようにして人形や宝石を見せている。
「やあ。何しているんだい?」
ハヴェルが部屋に入っていくと、リリザがパッと振り返った。手にした人形を守るように抱きすくめている。
「リリザの宝物を見せてもらってたんだよ」
アレシュはまだいくらか緊張の色が残っているが、リリザと話ができて安心したらしい。ぎこちない笑みをハヴェルに向けた。
「そうなんだ。俺にも見せてもらえるかい?」
ハヴェルも傍にしゃがみ込む。リリザは探るような目で彼を見上げた。
「リリザ?」
名前を呼んで、優しく笑い掛ける。人見知りの子供の扱い方は心得ているつもりだ。
リリザは問うようにアレシュを見た。アレシュが頷いたのを見て、おずおずと人形を差し出してくれる。
「可愛い人形だね。名前はあるの?」
「……ローゼ」
「ローゼか。素敵な名前だね」
人形はリリザと同じく金の髪をしており、高価そうな赤いドレスを着せられている。このドレス一着で数ヵ月は食べていけるんじゃないかと、ハヴェルは余計なことを考えた。
「そっちは? すごく綺麗な石だ」
リリザは答えない。かわりにアレシュが掌に載せた。
「以前お屋敷に泊まりにきた人にもらったんだって」
「へぇ。よく見てもいい?」
ハヴェルは宝石を受け取り、掌で転がした。照明を受けてキラキラと輝くそれは、到底硝子には思えない。
「……すごいな。本物だ」
リリザの宝物は高価なものばかりだった。金の懐中時計に貝殻の釦。精巧な細工の施された手鏡があるかと思えば、インクの切れた万年筆もある。万年筆には見知らぬ誰かの名前が彫り込まれていた。
「みんな誰かにもらったの?」
リリザが頷く。彼女のかわりにアレシュが答えた。
「全部お屋敷に泊まりにきた人がくれたんだって」
「泊まりにきた人って……親戚かな?」
「ううん。リリザの知らない人」
それを聞いたハヴェルは首を傾げた。
親戚ならばこんな贈り物をすることもあるかもしれないが、赤の他人とはどういうことか。たとえベルクホルト卿の友人だとしても、たかが友人の娘にこれほど高価なものを与えたりするだろうか。このことはハヴェルの心に引っ掛かりを残した。
「この家にはよく人が泊まりにくるのかい?」
リリザはじっとハヴェルを見上げている。それから細い指で彼を示した。
「もらうの」
リリザが笑う。
背筋が凍るような感覚がした。
それはあまりにもゾッとする笑みだった。引き延ばされた唇の下に、生え変わったばかりの白い歯が覗く。鋭い歯だ。まるで獣のような。紅茶色の瞳は瞳孔を失い、虹彩に赤が差したように見えた。そこに窺えるものは、無邪気な少女こそが持つ残忍さに他ならない。
「リ、リザ……?」
ハヴェルは動揺を隠せないまま、彼女にその言葉の、その笑みの意味を問おうとした。しかし、リリザは宝物を掻き集めると、アレシュの手を引いて行ってしまった。
残されたハヴェルは、彼女が落としていった万年筆を拾う。掘られた名前に聞き覚えはない。無意識に、父の名ではないことに安堵した。
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