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翌朝、二人はベンノによって起こされた。
長旅の疲れのせいか、あのあと朝まで眠ってしまったらしい。ハヴェルは夕食に参加できなかったことを詫びたが、ベルクホルト卿は気にしていないとのことだった。
「お疲れだったことは承知しておりますので」
ベンノはそう言って、二人を食堂へ連れて行った。
食堂は一階の西側にあった。暖炉の前の長机には二人分の朝食だけが用意されている。ハヴェルは弟と共に席に着きながら、ベンノに訊ねた。
「他の二人は一緒に食べないの?」
「旦那様もお嬢様も、朝食は自室で取られます」
朝食をわざわざ部屋に運ばせるということだろうか。貴族ならば普通のことなのかもしれないが、ハヴェルには不思議に思えた。
ライ麦パンとパプリカのスープ。林檎。メニューはシンプルだが、味も量も申し分なかった。特に、パンを好きなだけ取って食べていいというのがハヴェルには驚きで、ついついがっついて食べてしまった。
対するアレシュは食欲がなく、スープにパンを浸しながら少しずつ食べている。
「アレシュ? もっと食べないのか?」
ハヴェルはパンを千切りながら弟に訊ねた。
「遠慮しなくていいんだぞ。今は誰もいないんだし」
アレシュは困ったように眉を寄せた。
「なんだかあんまり食べる気になれなくて……」
「まあ、お腹が空いたら食べればいいさ」
ハヴェルは肩を竦めると、林檎をひとつポケットに忍ばせた。
「俺はこの屋敷を探検してみようと思うけど、アレシュはどうする? 付いて来るか?」
「ううん。僕はもう少し部屋で休みたいな」
「わかった。じゃあ、また後でな」
ハヴェルは食堂を出た。
本当に広い屋敷だ。一階だけでも見るところが沢山ある。
一階の東棟には食堂と厨房、洗濯室など使用人が使う部屋があり、中央棟には居間と応接間、撞球室と談話室がある。西棟は大きなサロンになっている。二階は基本的にすべて寝室だそうだ。
ハヴェルは西棟の一階から探検を開始した。
まず厨房を覗いてみる。華やかな壁紙に覆われた屋敷の中で、ここだけは漆喰が剥き出しになっていた。質素な土色の厨房は、ハヴェルのような庶民にはむしろ親しみを感じさせる。大きな竈には空の鍋が吊り下げられており、調理台の上は綺麗に掃除されている。厨房の奥には食糧庫への扉があった。
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