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悪魔はミシルの肩に腕を乗せ、耳に口を近づけた。
「これやるから、今日は休戦といこうじゃないか。せっかくハロウィンを楽しんでんだ。邪魔されたくねぇし。そっちもそうなんだろ?」
ミシルは恐る恐る悪魔を見上げる。
悪魔の声が聞こえていたニコアも表情を強ばらせていたが、悪魔の「ん?」と言う問いかけにコクコクと頷いた。
それを見た悪魔は満足そうに頷いてミシルから体を放した。
「じゃ、そういうことで。菓子はやったから悪戯しに来んなよ~」
ヒラヒラと手を振って去っていく悪魔は、本当にニコアたちと戦う気はないようだ。
2人はニコアの手に乗ったカップケーキと人ごみに紛れていく悪魔の背中を、呆然とした顔で交互に見やる。
「行っちゃいましたね……」
「……うん」
悪魔の姿が見えなくなってから、ニコアがぼそりと呟いた。
ミシルは心ここにあらずな返事をした。
「カップケーキ貰いました」
「……うん」
「……食べていいやつでしょうか?」
「……悪魔からもらったもの、よく食べようと思えるね」
「でも人間からもらったって言ってましたよ」
「本当かどうか分からないでしょ」
「……でも、美味しそうです」
「味覚、ないでしょ」
ニコアは今にもよだれを垂らしそうな顔でカップケーキを見つめている。
その頭にはもう悪魔のことなどないのだろう。
そんなニコアに呆れた視線を向けたミシルは、弟分の神経の図太さに感心せざるを得なかった。
「食べたければ食べればいいんじゃない?」
「ミシル先輩も食べます?」
「あたしは絶対に食べません」
「えぇ……美味しそうなのに」
「どうせ食べても味なんて分からないからね」
「こういうのは気分ですよ」
「……。とりあえず、場所変えましょ」
ミシルは大事そうにカップケーキを持つニコアの腕を引いて人波に体をねじ込んだ。
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