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気になるのか、ラケルはデクスター・ゴードンの『ダディ・プレイズ・ザ・ホーン』、二曲めをリモコンでまた再生する。
「これがその場の閃きで生まれたメロディ……」
いつのまにか、ラケルはジャズのスウィングに華奢な身体をビートに合わせて乗っている。
「わかるでしょ、ラケルがそんなに身を揺すっているのは、黒人の魂に共鳴するところがあるから。なぜ共鳴するかは、あなたにも魂が宿っている証拠よ」
「そうかな……でも、こんなに素晴らしい音楽があるなんて……」
ラケルの生活はがらっと変わった。わたしが冬休みとその前後の休講でずっと彼女に寄り添うことができたというのも大きい。また、市田さんにお願いしたラケルのもう片方の羽根も培養が完了したようだ。
彼女の読書や音楽好きには、もっと加速がついた。
そんな日が続いたある夜、季節的にはもう春なのに肌寒い毎日にうんざりしていた夜のこと──。
「お姉ちゃん、ちょっといい?」とラケルが口を開いた。
「うん、どうしたの」
「宿ったんです」
一瞬、わたしは何のことだかわからなかった。
「魂がわたしにも宿ったの。そうとしかわからない。お姉ちゃんたちに助けられてから、時間差みたいに、わたしのなかでなにかが弾けたの。こうしてわたしが存在しているっていうのが奇蹟であるような……」
「本当に……!?」
はい、とラケル。
「今日の午後、夕方あたりに……牧師館のわたしのお部屋から、なにげなく外を見たときになにかこう景色がいままでになく、きらきらして見えたんです。暗がりになりつつある教会の庭が芝生も桜の樹も……逢魔が時とはいうけれど……こんなに美しい逢魔が時ってあるんだなって……」
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