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わたしは涙ぐんでいた。
「ほら、お姉ちゃんの言う通りじゃないの」
わたしはそう返すのが精一杯だった。
「それに、あれからお父さんにいっぱいお勧めのジャズのCDを貸してもらって聴いたんです。もう音符……いえ、音そのものが血のなかを駆け抜けていくような感じまでします」
「ねえ、ラケル、弾けるんじゃないの?」
「……ひょっとしてジャズをですか」
そうそう、とわたしは嬉し涙を拭いながら言った。そして、とりあえずでいいから弾いてみて、と。
礼拝堂へ向かい、ラケルはピアノに向かう。難曲のはずの「コンファーメーション」をほぼ完璧に弾きこなした。もちろんアドリブはラケルの記憶にある、デスクター・ゴードンの演奏をなぞるものではあったが。
それでも凄すぎる。
わたしは母に話して、次の礼拝が終わったあと、ラケルに一、二曲ピアノを弾かせてはどうか、と打診してみた。もちろんオーケーだった。
いよいよ次の礼拝の日。
司会進行はわたしが務め、礼拝後にラケルがジャズ・ピアノ独奏を披露するので、よろしければぜひ聴いていってください、とアナウンスした。
礼拝が終わり、ゴシックドレスを着たラケルは皆に一礼すると、ヤマハのアップライト式ピアノの前に座った。
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