そして天使はスウィングする

11/13
前へ
/13ページ
次へ
 わたしは涙ぐんでいた。 「ほら、お姉ちゃんの言う通りじゃないの」  わたしはそう返すのが精一杯だった。 「それに、あれからお父さんにいっぱいお勧めのジャズのCDを貸してもらって聴いたんです。もう音符……いえ、音そのものが血のなかを駆け抜けていくような感じまでします」 「ねえ、ラケル、弾けるんじゃないの?」 「……ひょっとしてジャズをですか」  そうそう、とわたしは嬉し涙を拭いながら言った。そして、とりあえずでいいから弾いてみて、と。  礼拝堂へ向かい、ラケルはピアノに向かう。難曲のはずの「コンファーメーション」をほぼ完璧に弾きこなした。もちろんアドリブはラケルの記憶にある、デスクター・ゴードンの演奏をなぞるものではあったが。  それでも凄すぎる。  わたしは母に話して、次の礼拝が終わったあと、ラケルに一、二曲ピアノを弾かせてはどうか、と打診してみた。もちろんオーケーだった。  いよいよ次の礼拝の日。  司会進行はわたしが務め、礼拝後にラケルがジャズ・ピアノ独奏を披露するので、よろしければぜひ聴いていってください、とアナウンスした。  礼拝が終わり、ゴシックドレスを着たラケルは皆に一礼すると、ヤマハのアップライト式ピアノの前に座った。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加