そして天使はスウィングする

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 深呼吸するとラケルはチャーリー・パーカー作曲、例の「コンファーメーション」を弾き始めた。この曲は、スタンリー・カウエルのように遅いテンポの演奏もあるけれど、基本的にはかなりアップテンポの小気味よい曲だ。  ラケルはまず、テーマの部分を、先日聴いたデクスター・ゴードンのように弾く。  即興演奏(アドリブ)は無理をしないでね、とは伝えていたのだが、ラケルならではの運指による即興演奏がはじまる。スウィングしまくった演奏だった。  そしてテーマ部分を弾き、やはりラケルならではの集結部(コーダ)を弾いて終わる。  礼拝堂に集う皆が熱烈な拍手をした。  ラケルは二曲めを弾き始める──今度は讃美歌の三百十二番「いつくしみ深き」を……。最初は讃美歌らしくスローに弾き、一番の歌詞が終わるところで、思いっきりテンポをあげた。礼拝堂にどうっというどよめきがあふれる。  そして見事に「いつくしみ深き」のメロディがその場その場で複雑に解体されてはまた結合、融合し、ブロックコードを多用した、熱情的な打鍵で、この日この演奏でしか表現できない「いつくしみ深き」が礼拝堂に響きわたった。  そしてまた元のテンポに戻り、弾き終わる。
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