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満場の拍手。ラケルの魂が礼拝堂に集う全員に伝わったのだ。ないはずの天使の輪まで見えた気さえする。ラケルはそのまま深々と一礼して礼拝堂を去る。
アンコールを求める拍手は鳴り止まず、わたしも礼拝堂の信徒たちに頭を下げ、牧師館のラケルの部屋に直行する。
彼女はゴシックドレスのままベッドに倒れ込んでいた。
「あれがありったけのわたしの……」
「わかってる……あんなに燃え盛った魂だもの。でも、いまは休んで、ラケル──」
言い終わる前にラケルはかなりの消耗から、眠りこんでしまった。わたしはラケルの前髪をすっと持ち上げて、軽くキスをする。
主日礼拝後に開催されるラケルのミニライブは、まず教会に来られる信徒のジャズ好きの親族や友人のあいだで広まった。
今では地元のミュージシャンがドラムスやウッドベース、トランペット、アルトやテナーのサキソフォンを持参してミニライブに参加してくれる。
一つだけ不思議なことがある。
とっくに培養は終わっているのに、ラケルは失った左の羽根を元に戻そうと思っていない──そんな暇があるなら、ピアノの練習や音楽鑑賞、読書のほうがいいとでも言うように──。
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