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わたしはすぐにスマートフォンで市田さんに連絡を取った。彼はわたしのいとこで五歳上、医師は市田さんだけの小さな病院を営んでいる。
「雪子ちゃんおひさしぶり、こんな時間に、ということはあんまりいい知らせではないね?」
わたしは投げ捨てられた天使のことを説明した。
「かなり傷ついているようだから、まずは市田さんに診てもらおうと」
すぐにそちらへ向かうよ、と時間外なのに彼のクリニックへ天使とわたしを乗せていってくれた。わたしは市田さんが到着するまでに投げ込まれた天使の身体にバスタオルを巻いてあげ、サイズが合ってそうだからわたしの部屋着も用意した。
ange-techの隆盛には、安価でプログレッシブiPS細胞が扱える技術革新があった。市田さんのクリニックでも扱っている。
それまでは、人類が自分たちで遺伝子デザインを天使に適用する場合には時間がかかった。
たとえば彼女のように十六、七歳ぐらいの少女にするには、培養器のなかで、あるいは通常の子供のように十六、七年を生きなければクライアントに納品できなかった。
それが、プログレッシブiPS細胞のおかげで、人造人間の器官すべてが……もちろん人間もだけど……まるで音楽のサンプリング技法のようにすぐできるようになったのだ。
「ずいぶん酷いな」
クリニックに着いてすぐ市田さんはのちにラケルと名付けられる天使を診てくれた。
顔は殴打……顔だけではないが……され、鼻血が出ている。痛々しいのが左の羽根で、出血はまだ続いている。
市田さんはまず消毒と止血の処理をして、痛み止めの注射を打った。そのぐらい彼女へ加えられた暴行は酷かった。
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