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「どこのメーカーなのだろう……」
と、市田さんはプログレッシブiPS細胞のサンプルを取るため、彼女の肌を透過型電子顕微鏡で見た。
「メジャーな企業の『天使』だとは思えないな」
といいつつ、細胞一つ一つに刻印されたメーカー識別番号を調査する。
「やはり、コピー品や中華製かしら?」
「ご明察。どうもそうらしいね。一応は番号がふってあるけれど、これは虚偽情報だろう……タイレル社やウルスラ社は未成年のように見える人造人間の製造から撤退してしまったのだから」
とにかく、左側の羽根をはじめ、殴られてあざになっている箇所などを治さないといけない。
「そうだ雪子ちゃん、この番号の刻印のブレた感じ、ぼやっとした感じ、どこのメーカーなのか、検索すればわかるかもしれない」
そういって市田さんは透過型電子顕微鏡の画像をパソコンのAIに引き渡す。数秒後、この癖のある刻印とマッチしたメーカーが判明する。
もちろん知らない企業だったが、その名前で検索すると、天使の生死から知性レベル、語彙の数、感情の振り幅など、キーとなる言葉を収録したマニュアルのpdfファイルが入手できた。
市田さんはプリントアウトし、クリップではさんで渡してくれた。
「そうだ、残りの羽根はどうする? 右の羽根をサンプリングすればいいだけだし、培養に少し日数がかかるだけ、なんだけど……羽根はないほうがいいのでは? これはあくまでも僕の意見だけど」
「そうね……これは今わたしだけで決められない大事なことだし……」
とりあえず一応は左羽根の培養をはじめてもらい、彼女とわたしは牧師館に帰った。
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