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牧師である母はまだ起きており、片側の羽根をもがれた天使を見て絶句した。
「まだ痛むの……?」
と訊くが、天使は応急処置が効いているからか、大丈夫です、とだけ気丈に応えた。
「困ったわね……不要になった『天使』の世話には教会が向いていると思ったのかしら」
「教会で保護したいぐらい……」
お母さんもそれ賛成かな、と母からの援護がありがたい。そろそろお父さんが帰ってくる刻限だったのだから。
そう、牧師館に住んでいるとはいっても、母だけが牧師で、父とわたしはべつに信仰はもってない。父はIT系の企業に務めるビジネスマンだし。
ただし、父もわたしもそれなりに聖書の知識などがあり、お互い受洗もしている。結局、父も天使の処遇をうちの教会で……と認めてくれた。
天使は暴行とクリニックの診察で疲れていたのか、すぐ眠りについてしまった。
「それで、うちで引き取る……引き取るって言葉はちょっとおかしいけど……あの子が自分の名前を思い出してくれないと」
それなんだけど、とわたしは母に教えた。
「どうも一般的な知識や言葉、普段の意識などはそういう基礎の記憶や連続性があるのだけれど、『天使』としてのこれまでの記憶は削除されちゃったみたい」
そこで母がうちに投げ込まれた天使に名前をつけた。
ラケル。
わたしは苦笑した。
ラケルは旧約聖書の創世記に登場する女性で、姉のレアと比べて信心深い、優しい女性だったのだ。
「すると、わたしが……」
そう返すと、母は含み笑いをするだけだった。
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