そして天使はスウィングする

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 わたしは市田さんに電話で訊いてみた。 「ラケルちゃんが自分から外に出るというタイプではないというのは、もしかしたら前の持ち主との生活が無意識に残っているのかもしれないな」 「天使に無意識はあるのかしら」 「人間の世界でも、行動の九十パーセントは無意識によるもの、という説もあれば、無意識や深層心理などの『深み』は存在しない、そこまで意見が分かれているんだ」 「ならば、ラケルは無意識もあれば魂もちゃんとある可能性が──」  高いと思うな、と市田さん。 「それに、もしかしたらラケルちゃんは魂を意識しすぎて、それがかえって魂の否定に繋がってしまっているのかもしれない。本当はあるかもしれないのに」 「ラケルの知識欲はすごいけれど、それだけではない……かな。感動と表現するのは変かもしれないけれど、彼女が書物からなにがしかの感動を得ているのは確実だと思う」 「ただの外部情報の蒐集ではない、と」 「ええ。文芸書や哲学書などへも興味が芋づる式につながってすごいことになっているの」 「そうか……出せるものなら外へ出してあげても……と思ったんだけど、無理かな。もし精神年齢なども外見と同様にセットされているとしたら、それこそ遊びざかりの歳じゃないか」 「それはちょっとちがうの……ラケルはわたしよりも精神年齢が高いかもしれない」 「ならば、知的好奇心を満たすインドア系の趣味しかないな。ピアノを弾かせてあげるのは?」 「同じことを思ったところ」
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